Netflix「愛してるって言っておくね」を見るべきである理由。ネタバレ&感想

映画『トイストーリー4』の原案を書いたセレステ・ジェシーと、脚本家マイケル・ゴビア監督『愛してるって言っておくね』（2000）。 アメリカの学校で起こった銃撃事件に愛娘を奪われた夫婦の悲しみと虚無感、そして希望へと導かれていくまでの心のうつり変わりを描いた、短編2Dアニメーション。 仕事や他の趣味で疲れていて、あまり映画を観る時間がなく、ようやく見ることができました！

「愛してるって言っておくね」あらすじ

2018年、アメリカのフロリダ州で起きたマージョリー・ストーンマン・ダグラス高校銃乱射事件をモデルにした本作は、「12分という短い時間」でありながら、「遺族が抱える悲しみと深い傷」を見事に表現していた。 120分の映画を観るのが苦手という人でも、このアニメーションなら手軽に観ることができます。

鉛筆タッチの荒いドローイングは、まさに夫婦の「心のうつり変わり」を表現するのにピッタリです。 実際の被害者をインタビューし、当時の様子をカメラを通して語るより、「手描きのアニメーションだからこそ、人のこころに訴えるものがある」。そんな風にも感じました。 アニメーションと同時に流れる、どこか物悲しい音楽は、見ている人の感情を揺さぶりますね。 その先進的な表現方法が絶賛され、93回アカデミー賞では「短編アニメーション賞」を受賞しました。

愛してるって言っておくね　監督

監督ウィル・マコーマックは『トイ・ストーリー４』の原案を務めています。 ウィルとゴヴィアは、１年かけて本作の脚本を製作した。2018年にアニメーション製作が始まり、アニメーション監督としてヤングラン・ノーを抜擢しました。

『愛してると言っておくね』ストーリーとネタバレ

とあるアメリカの一軒家。名もない夫婦は暗い部屋で、向かい合わせで食事をとっています。 顔には表情がなく、目はうつろな夫婦に、会話はありません。だがその背景には、2人のシルエットが激しく口論している姿が映しだされています。 妻は機嫌を伺うように、ミートボールを夫に差し出します。だが夫はミートボールに目もくれず、その場を立ち去ってしまいます。 外に出た夫は、家の壁に塗られた青いペンキの跡を見て、涙を流します。夫の影は、まるで慰めるようにペンキの跡を包み込みます。 一方、洗濯物を干していた妻は、洗濯機から娘のユニフォームを取り出しました。娘のことを思い出した妻は、また涙を流します。その時、洗濯機の上からサッカーボールが落ちてきます。 飼い猫である黒猫がそれを追うと、やがてサッカーボールはある一室に入っていき、床に置かれていたレコードプレイヤーにぶつかります。 レコードプレイヤーからは「King princess」の『1950』が流れます。この曲をきっかけに、夫婦は娘の楽しかった日々を思い出します。

（以下、本作のネタバレ）

娘は元気活発な子供だった。母の作るミートボールスパゲッティが好物で、2人にいつも笑顔を振りまいていました。 父とはよく庭でサッカーをしていて、壁に傷をつけてしまうこともありました。そんな娘は、最後に学校に行くときも、笑顔を忘れませんでした。 楽しそうに学校に向かう娘の跡を、夫婦の影は「いかないで」というように追います。 しかし影は娘をすり抜けてしまいます。影は泣きながら、お互いを抱きしめ、消えていきます。 そして運命の次のシーン。学校に銃声が鳴り響きます。 夫婦は悲しみに明け暮れ、互いに別れを告げるように、背を向けます。 死んだ娘の影は、2人を引き止めようと、地面を握りつぶし、2人を手元に近づけます。娘の影は、「黄色い太陽」に姿を変え、夫婦は娘の太陽に照らされながら、前を向き、これからの未来を見つめ始めます。

「愛してると言っておくね」キャスト

本作は吹き替えが一切ありません。ですが総監督指揮として『スターウォーズ/最後のジェダイ』『マリッジ・ストーリー』『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』のローラ・ダーンが関わっています。

『愛してると言っておくね』制作秘話

本作は『岸辺のふたり（原題:「Father and daughter」（2000）』という映画の影響を受けているそうです。 『岸辺のふたり』は戦争で父を亡くした娘の話です。 モノクロスケッチ、そしてどことなく哀愁漂う音楽など、本作を連想させる要素がいくつかあるのも見どころです。

「愛してると言っておくね」のレビュー 映像ではなく、手描きのイラストレーションで伝える表現法には驚かされました。

アートディレクターのヤングラン・ノーは『愛してると言っておくね』のインタビューで、このように語っていました。

Because the film is really vulnerable and raw-feeling, I also wanted to make it look very raw and somehow unfinished, just like sketches,” she said （この映画はとても素晴らしいけど、とても深い悲しみも含まれている。だから私は悲しみ、心のうつろいを「未完成なスケッチのように」表現したかったの）

彼女の言うように、このアニメーションは完璧に色塗りされていない、単調な鉛筆のストロークで表現されています。 その鉛筆の動きが、そのままキャラクターの心情の変化を表しているようで、色々考えさせられました。 大切な子供を失った悲しみ、虚無感が悲痛の叫びとなって、映像を通し、視聴者に訴えかけてきます。 視聴していた私も、最初は覚悟していたんですが、学校のシーンで思わずウルっときてしまいました。そして両親に感謝しようと思いました。（大切に育ててくれてありがとう…両親…。）

この映画が伝えたいメッセージは、拳銃の恐ろしさではなく、家族の愛を普段から意識し、伝え合おうということなんだと私は思いました。

日本でも銃撃事件や無差別殺人事件がたまにニュースになりますが、その度に胸が痛みます。 少しでもこのような悲しい事件が起こらないことを願うばかりです。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました！ 普段は映画やドラマのことを記事にしています。https://cheeeeeez.hatenablog.com/archive

映画「ミナリ」ネタバレ＆感想 競争化強化する農業で子供を守る

キムチ！アイドル！極めつけに韓国映画！

韓国文化が進出した今、日本では韓国の映画が注目を集めています。

今回はゴールデングローブ賞、アカデミー賞の二冠を受賞した社会派映画「ミナリ」についてレビューしていきたいと思います。

minari

あらすじ

 1980年代のアメリカ南部を舞台に、韓国出身の移民一家が理不尽な運命に翻弄されながらもたくましく生きる姿を描いた家族映画。2020年・第36回サンダンス映画祭でグランプリと観客賞をダブル受賞した。農業での成功を目指し、家族を連れてアーカンソー州の高原に移住して来た韓国系移民ジェイコブ。荒れた土地とボロボロのトレーラーハウスを目にした妻モニカは不安を抱くが、しっかり者の長女アンと心臓を患う好奇心旺盛な弟デビッドは、新天地に希望を見いだす。やがて毒舌で破天荒な祖母スンジャも加わり、デビッドと奇妙な絆で結ばれていく。しかし、農業が思うように上手くいかず追い詰められた一家に、思わぬ事態が降りかかり……。

キャスト

スティーブン・ユァン

ハン・イェリ

ユン・ヨジョン

 制作会社は「ゴースト・ストーリー」や「ミッド・サマー」を手掛けてきたA24。多様性を取り入れていることでも有名です。監督はリー・アイザック・チョン。今作「ミナリ」で以下の賞👑を受賞しました。

インディペント・スピリット賞　（脚本賞、監督賞）

放送映画批評家協会賞 （監督賞、オリジナル脚本賞）

サテライト賞  　（監督賞、オリジナル脚本賞）　

英国アカデミー賞 （外国語作品賞　監督賞）

アカデミー賞　（脚本賞）

全米監督協会賞　長編映画監督賞

オープンバーム賞

NAACP（全米夕有色人地位向上協会） Image Award For Outstanding Writina motion Picture

 まさに総舐めといった感じですね。凄い。シンプルに。

こんなに大量の賞を受賞した「ミナリ」とは、いったいどんな映画なのか？早速「ミナリ」詳細を解説していきたいと思います。

ネタバレ＆感想　低賃金労働者に向けた静かな備忘録

【映像★★★★☆】　ノスタルジックなアメリカの荒れ地

８０年代のアーカンソー州の高原。のどかで自然豊か、どこか懐かしさを感じさせる風景と家々。古い木造タンスの引き出しやブラウン管テレビも印象的です。

【脚本★★★★★】　子供の将来、親の介護、二つの間で四苦八苦する父親と母親

いい点　様々な立場に置かれた人々の感情や仕草を完璧に切り取っていた

父親のジェイコブはアメリカ系韓国人。妻のモニカとひよこ鑑定士として、工場の雌雄鑑別で生活を立てていました。ダンシングや祈りを信じていない現実主義者ではありますが、１０年以上鑑定士を務めた努力家でもあります。ひよこ鑑定士としての仕事っぷりは一流。しかし彼はアメリカの土地で韓国の野菜を売るという夢を諦めきれませんでした。

監督曰く、アジア人は真面目で勤勉。主人公のジェイコブにもその素質がある、とのこと。

土地を借り、銀行の融資を受け、無職のと共に、開拓作業を進めることとなります。

一方モニカは「一人では子供の面倒を見切れない」「デビットに何かあった時に誰かがそばにいてあげないと」と、母親のスンジャを韓国から呼び寄せます。アメリカ育ちのデビットは韓国に嫌悪感を抱いていました。スンジャを「変なにおいがする（キムチのにおい）」と言ったり、自分の尿を飲ませたり。料理をせず、汚い言葉をつかうスンジャを祖母として認めたがりません。

しかしデビットが怪我をして出血した時、スンジャが「あんたは強い子だ」と元気付けます。常に大事にされてきた男の子のデビットにとって、この言葉はじわじわと胸に響きました。

それと同時に、デビットの韓国に対する差別意識も薄まっていきます。

ジェイコブは家族を蔑ろにし、経営に必死になっていきます。作物の納品が決まり、デビットの体調が回復したことで、ようやく一安心しますが、妻のモニカから「家族より仕事の方が大事なんでしょう」と、別れを切り出されてしまいます。しかしそれでも、仕事に

スンジャは脳卒中になってしまい、ジェイコブの育てた作物を不注意で燃やしてしまいます。一生懸命育てた作物を燃やされてしまったジェイコブは、結局水道調査を依頼し、デビットとミナリを収穫します。結局モニカとは別れずに、家族と新たなスタートを切ることを決めました。

【キャラクター★★★★★】　家族全員が生き生きとしていて、心を揺さぶられる

minari

いい点　違和感を感じさせない、血が滲んでくるようなシナリオ！

ミナリとは、韓国の食用芹のことです。韓国では親が子の幸せを願って植えられるそうです。

この物語において大事なのは、ミナリがどんな植物であったかということではなく、ミナリが息子デビットと祖母スンジャの絆を成長させた救世主であったことにあるでしょう。

ペットや植物の世話をすると、家族関係が良好になるといいます。

「おばあちゃんらしくないおばあちゃん」「韓国の植物」始めはそう毛嫌いしていたデビット。しかし終盤ではどちらも好意的にとることができ、スンジャと一緒にミナリの収穫作業を行います。

８０年代当時、アメリカで根強かった（現在でも問題視されていますが）韓国差別について、多くの問題提起があったように感じます。韓国人の顔立ちをしている子供たちが、アメリカ人の子供たちと打ち明けているシーン、工場で「韓国の教会はないの？」ときくシーン。娘のアンもアメリカ系の同級生と打ち明けていたのも微笑ましかったですが、アメリカ人の子供の父親がにこやかにしているシーンは、焦りを抱える移民のジェイコブと対比が効いていて、なんとも言えないシーンになっていました。

他にも、ジェイコブとビリーの関係にも注目したいところです。

ビリーは仕事に就いておらず、風変りでもあったため、ジェイコブの農作業を手伝います。またイー家に祈りを捧げてくれますが、ジェイコブはその好意を快く思っていませんでした。

終盤ではあまり描かれていませんでしたが、恐らくビリーはジェイコブの共同者として、一緒に農地を開拓していくのかもしれません。

悪い点　丁寧なあまり、起承転結が分かりにくかった

この映画は特に大きな盛り上がりがある展開はありません。最初から最後まで、邦画のようなゆったりした時間が流れる、サイレント映画。派手な映画が好きな方にはあまり受けないでしょう。また、映画というのは非現実に浸るために愛されるコンテンツ。現実をこれでもかというくらいリアルに描いた本作は、あまり大衆受けしないかもしれません。

価値がわかる人にはわかる。一部の大人にこっそり評価されるような作品。

また、デビットが友達と噛みたばこをするシーンがありますが、これはデビットが一段階大人になったことを表しています。しかしその説明については全く触れられておらず、観た人には「あのシーンは必要あった？」とも思いました。

【キャラクター★★★★☆】　地域コミュニティに焦点を当てた、鋭い観察眼×ユァン氏の怪演

アカデミー主演男優賞を受賞したスティーブン・ユァンは「ウォーキングデッド」にも出演すつアメリカ系韓国人です。ポン・ジュノ監督「オクジャ」では大企業の社員を、イ・チャンドン監督「バーニング　劇場版」では、その高い演技が評価され、ロサンゼルス映画批評家協会賞で助演男優賞を受賞しています。

「ウォーキング・デッド」では仲間想いのグレンを演じていました。

私はこのグレイというキャラがとても好きで、最早グレンが出るなら見る！というテンションで見に行ったのですが、実際「ミナリ」を観たら全然違うキャラだったので、とてもびっくりしました。

彼が主演男優賞を取れたのも、このグレンと正反対と言える人物を見事に演じ切って見せたからなのかもしれません。

「ミナリ」のジェイコブ→夢見がちな父親。病気がちな息子にも問答無用で体罰をする。上手くいかないと反発を起こすことも

「ウォーキングデッド」のグレン→シーズン初期から登場するドラマ内で唯一のアジア系で、主人公のチームとウォーカー（ゾンビ）と戦ういいやつ

グレンは正義感が強くてとてもカッコイイキャラ。（シーズン初期のころはかなり若いイメージがありましたが、今は大人の男性という感じですね）

銃を使うシーンも格好いいのですが、何よりも仲間のことを第一に考えるひたむきな姿勢に心を揺さぶられます。気になった方は是非ウォーキングデッドを観てほしいです！

【音楽★★★★★】主題歌を歌ったのは妻役のハン・イェリだった！

主題歌を歌ったのはモニカ役のハン・イェリが歌った。「Rain Song」まるで本当にアメリカの大地にいるような、豊かな気分にさせてくれる、美しい歌声。

ミナリ畑の草、水のにおいまで感じられそうです。

 

同時公開された「ノマドランド」との違い！どちらの映画が面白い？

３月に公開された、ハウスレス（ホームレス）の女性を描いた作品「ノマドランド」。こちらもアカデミー賞が噂されていました。結局「ミナリ」と「ノマドランド」のどちらを観ればいいのでしょうか？

結論からお話します。女性なら「ノマドランド」男性なら「ミナリ」をおすすめします。断然。

というのも、「ミナリ」は男性の出世欲、家族愛にクローズアップしているのに対し、「ノマドランド」は女性監督がメガホンを取っているからです。コンプライアンスが注目されている現代。どちらに大きな性差がある、とは言えませんが、共感しやすいという側面においてはやはりそのような視点にも触れていきたいところです。

女性の私から見ても、「ミナリ」はとことん男性向けだなあ、と感じました。

個人的には映画界隈では、「ミナリ」よりも「ノマドランド」の方が人気なイメージがあります。

これは余談ですが、「ノマドランド」ではハウスレスをテーマにしていますが、不景気・自宅生活が流行っている現代ではユースレス・ミニマリズム的な考え方が本当によく見られるな～と思いました。

前回の記事で、「100日間のシンプルライフ」という映画を紹介したのですが、こちらでも若者が没頭するミニマリズム・スタッフレスの暮らしについて解説しました。物が有り余っているにも関わらず、お金がない。若者は貧困に喘いでいる。スペースが狭い日本の土地で、いかに少ないものでオシャレに、かつ快適に暮らせるかが大事にされているという感じ。

「Style Factory」が進出し、スリーコインズ、ダイソーのラインナップも、無印やニトリをイメージしたようなシンプルな商品が増えています。シンプルライフは着実に多くの人の生活に侵入していると実感中…。

シンプルシンキングは日本だけでなく、アメリカにも広がっています。「タイニー・ハウス」というネットフリックスショーでは、住宅ローンが数年で済むという魅力から、若者が小さい部屋を買うという事例を紹介しています。

小さい家なら安く買える。とても堅実的かつ現代的な思想ですね。

ただ、個人的にはローンがかかってもある程度広いスペースがある家の方が、子供の発育にはよいような気がします…（シンプルなインテリアも、子供の発達の刺激になるのかな？とは思います）色々な視点で、条件に合った住まいが手に入ったらいいですよね。

 「ミナリ」はアカデミー賞から除外されるかもしれなかった

韓国語なのにアメリカ映画。その点に疑問を持つ人も中にはいたようです。実際ハリウッド外国人映画記者協会では、本作をアカデミー賞から除外する動きもあったそう。

この映画、良くも悪くも凄くアメリカ的なんですよね。西部開拓を目指すアメリカンドリームをテーマにし、差別や偏見を掘り下げているという。

同制作会社A24作品の「フェアウェル」のルル・ワン監督は「ミナリ」について以下のコメントを残しています。

「今年、私が見た映画の中で『ミナリ』以上にアメリカ的な映画はありませんでした。同作は移民一家についての物語です。彼らはアメリカで、アメリカン・ドリームを掴もうとしていたのです。アメリカ人は英語しか話さないという古くさい定義を変えなければなりません」

 また、「Glee」のダンサー・マイクを演じたハリー・シャム・ジュニアも、クエンティン・タランティーノの「イングロリアス・バスターズ」が非英語であると挙げています。

アジアだけでなく、メキシコ、スペイン。最早国籍を問わない作品がどんどん進出してきています。アカデミー賞はますます多様化を目指しています。様々な視点からアイディアを取り入れていくつもりなのでしょう。

とはいえ、なぜ「ミナリ」はアカデミー賞をとることができたのか

とはいえ、家族を題材にした韓国映画はたくさんあります。にも関わらず、なぜここまで「ミナリ」が絶賛されているのか？

アジア差別を取り上げたから、貧困家庭を取り上げたからか、もちろんそれもあると思います。しかしそれ以外にも、この作品が賞を獲った理由が考えられます。

「ミナリ」がここまで絶賛される理由とはなにか？

その答えは世代交代にある、と私は思っています。

現在日本で一番盛り上がっているともいえる漫画「進撃の巨人」ホラーの金字塔・アリアスター監督の「ヘレディタリー」。新海誠監督の「君の名は」そして今回の「ミナリ」。

この作品たちに共通することは「血筋」そして「家系」です。

巨人を継承する、血筋を追う、祖母の育てていた植物を次世代が育てるーーーそれは人々にとって未知の体験なはず。技術の継承、子孫への継承…それらに不安を感じない人は世界を探しても、ほとんどいないのではないでしょうか。

人は人から生まれます。卵から生まれたり、他の生物から生まれることはありません。名前があって、母親がいて、兄弟がいるーーー家族。それは人類が最も身近に抱える共通項であると言えます。いわばとってもなじみ深い話題。だから多くの人がこれらの作品に共感する。ミナリもその役割を果たしていると思うのです。

ミナリの公式サイトでは、ミナリという植物について、以下のように説明しています。

たくましく地に根を張り、2度目の旬が最もおいしいことから、子供世代の幸せのために、親の世代が懸命に生きるという意味が込められている

次世代に込めた願いが、ミナリには詰まっている、という訳ですね。

最後に　アカデミー賞納得の出来だった。見て絶対損はない

いかがだったでしょうか。読んでいる方に、「ミナリ」の魅力が少しでも伝わったら嬉しいです。

第93回アカデミー賞授賞式は、日本時間の４月２６日午前に行われるそう。主演男優賞を取ったユァン氏、そしてチョン監督のコメントが楽しみですね。

ここまで読んでいただきありがとうございました。普段は映画の考察をしています

cheeeeeez.hatenablog.com

「モンスターと水中でメイクラブ」映画「シェイプ・オブ・ウォーター」ネタバレ＆感想

突然ですが「孤独力」ってなんでしょう？

学校、会社、アルバイト先、習い事…わたし達はあらゆる団体に所属し、生活しています。そんなときに必ず人がぶち当たる悩み、それは孤独感。

晩婚化が進み、若者の結婚率はとかなり低くなっているこの令和という時代で、

YouTubeでは「ルーティーン動画」が流行っています。人々の繋がりがどんどん希薄になっている、それにもかかわらず、誰かに認められたいという気持ちに、人々は悩まされています。

一方、孤独がプラスに働いたらどうなるか？孤独力ーーーそれは自分が孤独と感じた時に、より何かを強く愛そうとする力が働くことを示しています（色々なことに没頭できる）

今回は、孤独な女性に焦点を当てた「シェイプ・オブ・ウォーター」という映画を紹介していきたいと思います。

shape pf water

あらすじ

1962年、冷戦下のアメリカ。政府の極秘研究所で清掃員として働く女性イライザは、研究所内に密かに運び込まれた不思議な生き物を目撃する。イライザはアマゾンで神のように崇拝されていたという“彼”にすっかり心を奪われ、こっそり会いに行くように。幼少期のトラウマで声が出せないイライザだったが、“彼”とのコミュニケーションに言葉は不要で、2人は少しずつ心を通わせていく。そんな矢先、イライザは“彼”が実験の犠牲になることを知る。

キャスト

サリー・ホーキンス

ダグ・ジョーンズ

マイケル・シャノン

オクタヴィア・スペンサー

リチャード・ジェンキンス

ネタバレ＆感想

 

【演出★★★★☆】６０年代のレコードから湧出する、美しい旋律

６０年代の舞台とした作品なため、その時代背景に合わせたセッティングになっています。古い時代の良い性質ーーーレトロチックなファッションや音楽。聞いていてとても心地いい。

私はジャズが好きなので、この音楽は流れる水のような滑らかな旋律がとても好きです。この映画のテーマが「水」だからというのも大きいです。女の子は水が大好き。（多分）

緑を基調としたスクリーンもとっても美しい。石造りのバスタブまるで映像ひとつひとつが、エメラルドの宝石のようで見ていて飽きません。

物語序盤の、部屋が水であふれ、家具が浮いているシーンも意味深で素敵でした。

また、後半に出てきた無音声映画のような白黒スクリーンの演出もよかったです。

【脚本★★★★★】世界観を既に完成させている

「レトロ×近未来」これは大人気コミックス「AKIRA」と共通しているように感じます。今の時代では決して再現することができない想像上の近未来の描写、そして完成された世界観。いやはや、美しい。

監督はこの映画を５年かけて制作したとのこと。『パシフィック・リム』での経験を生かして、怪物の美しい装飾を映し出すことに注視したそうです。

【キャラクター★★★★☆】過激な性描写もキャラ作りの一つ。登場人物たちのストーリーが、ぎゅっと凝縮されていた

shape of water

主人公イライザを演じたのは「ブルー・ジャスミン」で一躍有名になったフランシス・ケイト。

「シェイプ・オブ・ウォーター」では、イライザを中心に、画家のジャイルズ、同僚のゼルダ、それから研究者のホフステトラーが物語を繰り広げていきます。

ゼルダはうだつが上がらない夫と暮らしている主婦。６０年代アメリカといえばキング牧師の演説、人種差別を謳ったワシントン大行進など、黒人が社会で活躍することが増えた半面、まだ現代ほど地位を獲得できていなかった時代です。そんな中、前向きに仕事に取組み、積極的にイライザに話しかける姿にはついつい好感を覚えてしまいます。

画家ジャイルズに対してはかなり掘り下げられていました。「自分の描いた絵が売れない」「自分の性的趣向（ゲイであること）を否定される」という、二つの辛い境遇に充てられている。６０年代の同性愛者に対する偏見も描かれています。

彼のキャラクターは、イザベラにとってどのような影響を与えているのか？それはゼルダと全く逆の立場でイザベラを諭すことができる、いわば「指導者」という役割を果たすためのキャラなのではないでしょうか。

ジャイルズもゼルダも、イライザからしたら同じ「指導者（主人公にアドバイスをする立場）」なんですよね。

ゼルダは陽気で明るい性格ですが、ジャイルズはイライザ以外あまり友達がおらず、陽気な性格でもありません。イライザと一緒にテレビを見て、

話を聞く側のジャイルズ、話を聞いてくれるゼルダ、二人のコミュニケーションがあることで、イライザは毎日過ごすことができていました。 

それでも性的要求は満たせなかった。イライザはバスルームで自慰行為をして、自分自身を慰めることで、なんとか孤独を乗り切っていました。

これは無意味なエロシーンなのかといえばそういう訳でもなく、イライザの孤独を強調しているシーンなのだと思います。

恋人がいない。だから自分で慰めるしかない。それが悪い訳でもなく、ただルーティーンとして消化されていく、それをいいとも悪いとも捉えず、ただ日常の一つとして捉えているのがとても印象的であり、衝撃的。

全体的に「シェイプ・オブ・ウォーター」はマイノリティ側に所属している人たちのライフスタイルを映し出していて、クリーチャーという非日常な存在によって、交流を深めていく、そんな冒険譚。

【ストーリー ★★★★★】

良い点： 人種を超えた愛、それを受け入れてくれる家族のような存在

物語に出てくる怪物（クリーチャー）は、宇宙ステーションにて、ロシア軍に研究されていました。

そもそも「シェイプ・オブ・ウォーター」は1954年にアメリカにて公開された「大アマゾンの半魚人」が元ネタらしく、監督は主人公の怪物とヒロインが結ばれるストーリーが描きたかったと語っています。

「大アマゾンの半魚人」は怪物がヒロインに恋をする話ですが、本作はヒロインが怪物に恋する話にいシフトチェンジしていますね。

「大アマゾン」とは違い、クリーチャーが大分スペックが高く設定されていると感じました。

知能は手話を理解したり、人のリアクションを真似することができたり、知能はかなり高め。イライザは怪物に朝食の卵を与えることで、クリーチャーとコミュニケーションをとるようになります。

クリーチャーと自分の姿を重ね合わせるようになっていったイライザは、怪物が研究者に殺処分されることを知り、クリーチャー奪還作戦を企てます。

ジャイルズやゼルダの反対を押し切り、なんとか説得させ、イザベラは無事怪物を自分のアパートの浴槽に避難させることに成功します。

その怪物を研究所から連れ出すシーンは、緊張感があり、とてもドキドキハラハラさせられました！特にの車がレトロなだけあって、なにかおしゃれなMVを見ているような気分になりました…！

全体的にとてもおしゃれで情熱的な脚本。一気に引き込まれました！

悪い点：もう少し大衆向けにしてもよかった

やっぱり気になったのは守衛のストリックランドですかね…。魅力的な悪役ではあったと思うのですが、奥さんとのモザイクつきのエロシーンや、過激的な暴力シーンは観ていて辛かったです（知り合いは、職場の人と観に行ってとても気まずかったと語っていました。この映画は一人で観たほうがいい…。

それと、バーの男性がゲイに全く理解がなく、なんの制裁もなかったのもモヤモヤポイント。まるでジャイルズが現実逃避したいがためにイライザに協力したみたいになってしまうような気がする。

この物語自体が「孤独」をテーマにしているバッドエンドの作品なため、あまりハッピーな展開は似合わないのかもしれないですね。

「燃えるんだよ」ドS守衛・ストリックランドの色気！

shape of water

この映画で特に印象的だったドS悪役・ストリックランドについて、ちょっと掘り下げたいと思います。

演じたのは「レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで」「ナイブス・アウト」のマイケル・シャノン。

shape of water

「手を二回洗うやつは軟弱なやつだ」という過激なセリフを残して去っていく、という不気味な第一印象を残します。

基本的にめちゃくちゃサディスティック。自分が一番良ければいいと思っているタイプなようです。

（以下、作品のネタバレ注意！）

彼は気になっていたイライザ、そしてキャリアを奪われた怪物に嫉妬します。

イライザとクリーチャーは終盤で海での別れを惜しみますが、その展開を気に入らなかったストリックランドは、イライザ銃で撃ってしまいます。逆上したクリーチャーはストリックランド喉を引っかき、彼を殺してしまいます。これは喋れない彼女を殺したという「報い」ですね。なんとも皮肉な結末…。

ストリックランドはイライザとクリーチャーを包み込む暖かい環境を真正面から否定しつつ、二人に執着してしまう、という矛盾を抱えたキャラ。物語のスパイス的存在です。例えるならカレーのターメリック。スパイスがあることでまろやかなカレーが刺激的ないいカレーになる。

過激的な性描写や暴力シーンは、まさにそういった作品のスパイスとなるのかもしれません。

【最後に】怪物は一体イザベラをどういう気持ちで見ていたのか？

イライザが話すシーンがあまりなく、ほとんど会話劇になっていた「シェイプオブウォーター」。怪物の心情は手話、それからわずかにわかる表情だけでしか語られたいませんでした。

実際クリーチャーはイライザに恋愛感情を抱いていたのでしょうか？

ラストの結末、そして冒頭のシーンから考えるに、イライザとクリーチャーは「一体」になったのではないでしょうか。

冒頭では、イライザが愛していた部屋や小物は全て水に包まれています。ラストは水の中で怪物に抱かれてその命を追えます。クリーチャーとイライザは今度こそ一緒になることができました。ということは、この映画の冒頭ではっきり描写されていたイライザの「孤独」はクリーチャーによって解消された、ということになりますね。これを愛と呼ばずになんと呼べばいいのでしょう。

この映画はバッドエンドでしたが、主人公にとってはハッピーエンドだった（いわばメリバエンド）ということだと思います。

エドシーランの「シェイプ・オブ・ユー」という曲が全世界で大ヒットしましたが、この「シェイプ」という言葉には「輪郭」「シルエット」という意味があります。「シェイプ・オブ・ウォーター」は「水の形」ですが、この映画では得に「水に浮かび上がる二人のシルエット」にスポットを当てたかったのではないでしょうか。

だからポスターでは、水中の二人のシルエットが協調されていた。そんな風にもとれそうです。

「勇気を出して行動しよう」ギレルモ監督が語る創作論とは？

今作の監督ギレルモ・デル・トモのインタビューも、創作に関する話題を取り扱っていました。

劇作家のブレヒトの言葉だね。「一日だけ勇敢な者は“グッド”。しばしば勇敢な行動をとる者は“ベター”。常に勇敢な行動を続ける者は手放してはいけない」という名言に、僕も従うようにしている。

そして監督は、ラブストーリーにおける愛について、次のようなコメントを残しています。

愛はロマンチックなものだけじゃないからね。親から子への愛、きょうだいや友人との愛、そして映画や音楽、アートへの愛……。金儲けをして権力をつかんでも、決して幸せとは言えない。親になったら、子供の幸せを願うようになるわけで、そうした愛こそ本物だよ。僕らクリエイターは幸せかもしれない。映画や脚本で、そうした愛を表現できるからね。

 この言葉に私はとても共感しました。

「マリッジ・ストーリ」「ラ・ラ・ランド」などが評価されるようになってきた時代。恋愛はハッピーエンドが全てではない。賢い視聴者は気付き始めています。美しさの真価とは何か。ハッピーエンドでない物語を、どう演出し、人々に共感させるか。この映画を通して、その答えを少しでも垣間見れればいいなあ、なんて思う次第です。

 また、この映画は小説版もありますので、気になる方はチェックしてみてください。

シェイプ・オブ・ウォーター (竹書房文庫)

「シェイプオブウォーター」はどこで観れる？

「シェイプオブウォーター」はNetflix・U-NEXTでは配信されていません。Huluでも配信が終了してしまうので、dTVやAmazon Primeで視聴するのがおすすめです！

www.googleadservices.com

www.amazon.co.jp

ここまで読んでいただきありがとうございました！普段は映画の考察などをしています。

cheeeeeez.hatenablog.com

映画史上に残るどんでん返しムービー!「ユージュアル・サツペクツ」を一回で理解する楽しみ方とは

こんにちは。映画ブログを運営しているみゆです。

つい最近ネットフリックスで、有名な「ユージュアル・サツペクツ」を視聴しました。

usual susupects

９０年代アメリカで起こったギャング紛争を描いたこの映画、実は意外ととっつきにくい……なぜなら、昔の映画であること、またギャングについてあまり詳しくない人が見ると分かりにくい、などといった難点があるからです。

しかしこの映画を観た後、その第一印象は全て覆されました。いや本当に、この映画を観るためにこの時代に生まれてきたと言っても過言ではない！　というくらい面白かった。

それではあらすじと感想、解説などを、そしてこの映画を５００倍楽しむには！？そのちょっとしたアドバイスもしていきたいと思います！

あらすじ

キャスト

監督は「ボヘミアン・ラプソディー」「スーパーマンーリターンズー」「X-MEN」などを制作するブライアン・シンガー。今回の「ユージュアル・サツペクツ」で一躍注目を浴び、他にも第２８回東京国際映画祭で審査委員長を務めています。

そして主演のケヴィン・スペイシーはアメリカの俳優、元芸術監督。「セブン」「ベイビー・ドライバー」「アメリカン・ビューティー」などに出演しています。（大好きな映画ばかりだ……！）

「アメリカン・ビューティー」と「ユージュアル・サツペクツ」でアカデミー賞主演男優賞を獲得しています。

ざっくりどんな映画か解説

物語は語り手のヴァーバルを中心に、５人のギャングにスポットが当てられます。

キートン……元刑事の前科者。過去に数々の犯罪に手を染めていた。組織のリーダー的存在

ホックニー……爆薬担当。すぐ仲間を裏切る

マクマナス……短気で攻撃的な銃使い

フェンスター……マクマナスの相棒。訛りが強い

ヴァーバル……左足に麻痺がある詐欺師。本名はロジャーだが、よく喋るため言葉（ヴァーバル）と呼ばれている

 参考：Wikipedia

この５人がなんとも癖があって、それぞれキャラが経っている！そして女子からみてもかっこいい！

舞台は警察署で、ヴァーバルがクイヤン捜査官にサンペドロの船の事件の顛末を告白をする……というところから始まります。

その話では、刑務所で出会った５人のギャングが、主に元警察官・ディーンキートンを中心に３００万ドルの宝石を狙おうという話でした。

ところが、弁護士のコバヤシ、そしてギャングのボスカイザーソゼの怪しい計画が浮上。５人はこのカイザーソゼに雇われる形となり、命を握られながらも、なんとか計画を遂行させようとする……という、一見よくあるギャングストーリー。

あまりBGMもないし、淡々と話が進んでいきます。

一度で全員の名前を覚えるのは大変なので、家で鑑賞できる方はメモ帳を持って整理することをオススメします。

この映画はいたるところに伏線がちりばめられているため、ん？と思ったことはメモにまとめて、一度停止して、「カイザーソゼはこの人なんじゃないか……」「キートンは本当に死んだのか？」など、推理してみるのも面白い。

感想

私はカイザーソゼは誰なのか？ということをずっと考えながらこの映画を見ていました。考えていたのは４説。

1. ディーン・キートンがカイザーソゼ……警察を辞めた後に「悪魔」「人殺し」と言われているのが怪しい
2. マクマナスがカイザーソゼ……拳銃を持っていたから　実は死んだふりをしていた
3. コバヤシがカイザーソゼ……一番カイザーソゼに近い人物だから
4. ヴァーバル、もしくはクイヤン捜査官がカイザーソゼ……理由はわからないけど一番どんでん返しといえばこのあたり

で、キートンがカイザーソゼなんじゃないかと疑う人は、この映画を観た人ではもの凄く多かったんじゃと思います。彼に一番焦点が当てられていましたから。

映画のラストで「キートンがカイザーソゼだったんだ！」というヴァーバルの脅えた告白、そして重厚なBGM、「やっぱりそうか」と確信をつくクイヤン捜査官。

ヴァーバルは言います。「自分は弱いから、助かった」と。そして警察に自分を守ってほしいと訴えます。クイヤンはその表情が演技ではないと信じ、ヴァーバルを仮釈放します。

そう、この映画はこのラスト数分で全て、覆ります。

ヴァーバルは荷物受け取りで金のライターを受け取ります。ここで視聴者が「ん？」となった一つの点ですよね。金のライター？弱者と言っておきながら、まるでマフィアのボスみたいじゃないか……と、置いてけぼりにさせておきながら、視点はクイヤンに移ります。

クイヤンが掲示板に貼られた指名手配の紙をふと見ると、そこには今までのストーリに出てきた単語があらゆるところにちりばめられている。

そして飲んでいたコップを見て、思わずそのコップを落としてしまいます。

そのコップの底には、「コバヤシ」と英語で書かれていたのです。

その瞬間クイヤン捜査官の頭の中で、ヴァーバルが話していた内容が全て蘇ります。彼が話していたことはその場の即興ーーーアドリブだったのです。

ヴァーバルは引きずっていた足を元気に動かし、颯爽と車の中に消えていきます。運転していたのは、物語で「コバヤシ」と名乗っていた人物。

「ソゼは凄い。自分の存在を謎にした。そして……He's gone(消えた)」

このヴァーバルの回想の一言で、物語はしっとりと終わりを迎えます。

usual suspects

いや～～～、おしゃれすぎる！まさか全てが嘘だったなんて！

そのトークスキルにも脱帽ですが、やはり注目したいのはケヴィンスペイシーの怪演。

下半身麻痺を持つおしゃべりで、ちょっと気の弱い人物を演じておきながら、ラスト５分で恐ろしい黒幕カイザーソゼの姿を現した。これは鳥肌ものでしたね。運転手がコバヤシの人だったのもカタルシスが利いてる……というのも、このコバヤシという人物は唯一主人公５人とカイザーソゼを繋ぐ、仲間とも敵とも言えない不気味な人物でした。

この人物がこの物語のスパイスになっているのは間違いなし。

能ある鷹は爪を隠すといいますが、まさに圧倒的な人心掌握力で、ヴァーバルは警察を騙したのです。

ヴァーバルはそもそも本当にカイザーソゼなのか、キートンは結局誰だったのか？

この物語で一番気になるところは、「ヴァーバル」「カイザーソゼ」「コバヤシ」「キートン」この４人だったと思います。

結局真相はなんなのか？

実はこの話、本当なのか嘘なのか。キートンは実在していたのか？

「嘘をつくときには、ちょっとずつ本当のことを混ぜるとよりリアリティになる」と言われているので、もしかしたら本当のことも含まれているのかもしれませんね。

個人的には、「ヴァーバル」＝「カイザーソゼ」なのは間違いないと思っています。

カイザーソゼはこの話には嘘とは思えない妙にリアリティがある話だったので、この冷酷なカイザーソゼが、４人を粛正した、というのが、恐らく真実。

キートンは、ヴァーバルが本当に弱者であることを信じていたのではないでしょうか。そして弱者であったがゆえに逃がそうとした。その弱者が実は自分たちを脅していた黒幕で、自分を撃ったとしたらーーーもしそうだとしたら、黙って撃たれたキートンの心情は計り知れません。

ただ、仲介人のレッドフッドもヴァーバルが考えた偽の人物だったため、実際どこまでが本当でどこまでが嘘なのか本当にわからないんですよね。

多分「カイザーソゼ」という名前も偽名だと思います（コバヤシが偽名だったので、あくまで予想ですが……）そうだとすると、一瞬でカイザーソゼという名前を印象つけた彼の話術に驚かされますね……。

話はキートン＝カイザーソゼでまとまるように作られていた訳ですから、当然「この話はキートンが黒幕だ」となるわけです。でもそれって当たり前なんですよね。だってヴァーバルの脚本では確かにキートンを黒幕で設定しているんだから。

その話が脚本（嘘）だと理解した時の捜査官の悔しそうな顔！そして駆けつけた時にはすでにヴァーバルの姿はなかったーーーこの演出、本当にしびれます。

とはいえ、じっとみるのが辛い人には合わない作品かも

しっかり最初から最後まで観た人だけが、ラスト５分の快感を味わう、いわゆる我慢大会みたいになってしまうのも事実。そのため、何回か繰り返し観ることをお勧めします（私は１回目で退屈してしまい、２回目で真剣に観ました）

ちなみにマグショットのあのシーンはアドリブらしいですね……妙にイカれてんな～と思っていたのですが、この「キーをよこせ　チンポコ野郎」というセリフは、単に笑わせたかったとか（笑）そしてキャラに合った言い方をそれぞれするのがとても面白いシーンとなっています。その言い回しは是非本編を見ていただきたいと思います！

最後に　もう「頼むからみんな観て」としか言えない名作

自分は「ストレンジャー・シングス」「進撃の巨人」のように、伏線を回収していくミステリーものが大好きで、自身の創作活動にもかなり取り入れています。

「あ！それってそうだったんだ！」と分かったときの、あの脳汁が出る感じ……たまりません。そのなし汁ブシャー感を是非この映画で味わってほしい。

ここまで読んでいただきありがとうございました！普段は映画やドラマの感想、考察を書いています

cheeeeeez.hatenablog.com

 ユージュアル・サスペクツをNetflixで観るならこちらから！

www.netflix.com

U‐NEXTなら無料お試しで観れちゃいます！

www.video.unext.jp

映画「さんかく窓は外側の夜」が提案する、宗教の怖さ ネタバレ&感想＆考察

2021年２月、イオンシネマで映画見放題「ワンデーフリーパスポート」のドリンク&フードの食べ放題キャンペーンが行われていました。（３月４日終了済）

1000円は映画を一日見放題なんて安すぎる！　しかもドリンクフード食べ放題！　という訳で、さっそく直行してきました。イオンシネマに！いざ！

行ったのは某神奈川県のイオンシネマ。当時は二月だったので、観たのは３つ。「新解釈三国志」「マーメイドインパリ」「さんかく窓は外側の夜」。

本当は今話題の「花束みたいな恋をした」を見たかったのですが、スケジュール的に時間が合わなかったので断念せざるを得なく……。うっ(´;ω;｀)

その中でも、今回はミステリー要素が強い「さんかく窓は外側の夜」のレビューをしたいと思います！

あらすじ

 書店で働く三角康介は、幼い頃から幽霊が視える特異体質に悩まされていた。ある日、康介は書店にやって来た除霊師・冷川理人に勧誘され、一緒に除霊の仕事をすることに。刑事・半澤から1年前に起きた連続殺人事件の調査を依頼された2人は、やがて遺体を発見するが、その遺体には呪いがかけられていた。真相を探るうち、彼らは自殺した殺人犯の声を度々聴くようになり……。

キャスト

• 岡田将生
• 志尊淳
• 平手友梨奈
• 輝滝藤賢一
• 筒井道隆
• マキタスポーツ
• 新納慎也
• 桜井ユキ

原作はヤマシタトモコの漫画「さんかく窓は外側の夜」

さんかく窓の外側は夜 1 (クロフネコミックス)

ヤマシタトモコさんは、主にBLをテーマにした作品を書く漫画家です。

そのため、この漫画も男性同士の距離感が近かったり、「僕の運命」「僕と一緒にいれば怖くない」など、まるで恋人に言うようなセリフを言い合シーンということが多い。男性からしたら、戸惑うことも。

ミステリー要素が多く、最後までハラハラドキドキの展開を繰り広げる異色映画。今回はそんなさんかく窓は外側の夜についてのレビューを書きたいと思います。

少し長いですが、お付き合いいただけたら幸いです。

主役の2人のツーショットが、とにかく美しい

三角を演じた志尊淳、それから冷川を演じた岡田将生。この2人のツーショットがとにかく美しい。同じ岡田将生が演じたSTというドラマと違って、この2人の関係性はちょっと歪でダウナーな雰囲気がありますね。

そういうのが好きな人にはたまらないのかも。

あとオープニングの編集。おしゃれ。とてもおしゃれ。おしゃれで雰囲気がある。映画はおしゃれな雰囲気を味わうという楽しめるのも魅力の一つ。一気に引き込まれたといってもいい。日本の映画なのに、安っぽさを感じない。照明も小物をこだわりを感じました。

この物語のキーワードは、「信じる力」

主人公三角は、生まれた時からある不思議な力を持っていた。それは幽霊が見える、というもの。その体質から、三角は子供の頃、周りの同級生に「気味が悪い」といじめられていました。

そのいじめっこが幽霊に襲われた時、三角はいじめっこを恨んでいたこともあり、そこから逃げ出してしまいます。以来三角にとって、幽霊＝怖いものとなり、眼鏡でその姿を確認するたびにおびえて逃げる、という生活を繰り返すように……。

ある日本屋で霊に出くわした三角は、眼鏡をかけ、霊を見ないように努めます。そんな中、三角は本屋で冷川という霊能力者に出会います。

そしてにっこり微笑まれたかと思いきや、いきなり「君は僕の運命だ」と言われ、体を抱き寄せられます。

霊に怯える三角の体を引き寄せ、冷川は三角の胸に手を当てます。

すると、2人の間を黒い異空間が包み込みます。白い三角が2人を覆い、三角の脳内にある映像が流れてきます。

それは、幽霊の生前の記憶。女性を誘拐・殺害していた男性は、自宅の風呂場で女性の体を切断していました。その記憶を覗いた三角はかなりうろたえます。冷川は冷静に手を翳す。すると幽霊は消えていった。除霊が完了します。おそらくタイトルの「三角窓」とするとは、三角の能力のことを指していると思われます（以下、三角の超能力＝三角窓と明記）

その夜、冷川は三角を焼き肉屋に連れて行った。そして、「僕の助手にならないか」と提案し、契約書を差し出します。

それにしても醤油で契約って、ちょっとシュールですね…乾いたら臭ったりしないんだろうか…

三角はなにやら体の違和感を感じながらも、親指に醤油をつけ、その契約書に押し付けます。

次の日、冷川の知り合いの刑事、がであることを知らせます。

また、悪徳政治家や弁護士が、原因不明の事故で死亡しているという、なんともミステリアスなもの。

そして三角達は、彼らが「ヒウラエリカ」という女性に呪われて殺されたのではないか、という推測を立てます。そしてその女性が平手友梨奈ちゃん演じるエリカです。

sannkakumadohasotogawanoyoru

エリカの呪いの力は、ある廃墟の施設の一室「貯金箱」にパワーを溜め、増幅させることで発揮されます（曰く、教祖の力で作り上げたとか）

冷川は除霊の件を警察の半澤に伝えます。半澤は三角と冷川に「俺はオカルト的な話は信じていない。だから危険な場所に行っても大丈夫なんだ」と言い、引き続き捜査の協力を仰ぎます。冷川は「あなたの信じてないという姿勢が、逆に助かる。僕を信じないで」と笑い、事務所に残ることになります。

この半澤というキャラクターはけっこうこの物語には大事なんじゃないかと思いました。幽霊を信じない あっけらかんとした態度が、救われることもある。このメッセージ性はちょっと感動させられました。というのも、このキャラクターは三角と対比する存在となっているからです。

人間というのは知らない、よくわからないものを怖がるものです。三角は幼いころから幽霊を見ることができました。だから幽霊を怖がっていた。それに対し掲示は霊感がありません。「霊は信じない」と言い、怖がるそぶりもありません。幽霊を知っている人間が怖がり、知らない人間が怖がらない。この対比が、一種の皮肉というか、物語に深みを与えているような気がします。

幼い頃の冷川をずっと見守ってきた。彼は冷川にとって、父のような存在だったのかもしれません。三角のお母さんも、霊にはかなり鈍感です。幽霊が見える人にとっては、彼らの存在が暖かく、ありがたいものであるのかも。

呪いを続ければならなかったエリカ。そんな彼女に、冷川は幼い頃の自分を見る

 レイカは一見ただの女子高生ですが、実は人を呪う力を持っています。

そのやり方はとても簡単で、「お前はあの車にぶつかって死ぬ」と念じれば、相手が勝手に車に突っ込んでいく、というもの。恐ろしい……。

ただし副作用もあります。人を呪わば穴二つ、という言葉があるように、鼻や耳から

「ストレンジャー・シングス」のイレブンと同じ、超能力の副作用で脳にダメージがいく、というやつですね。

ストレンジャーシングスのエル

strengerthings

三角と冷川の力によって、エリカは拘束されてしまいます。そして記憶を読むと、エリカは宗教団体の一員であったことが分かります。

 対立する三角と冷川。自分の体に刻まれた三角の烙印が、醤油の契約であること、そして冷川がヒウラエリカの呪いを知っておきながら、それを放置していたことを三角は知ります。三角は事務所を出ていき、エリカと一緒に貯金箱の破壊を試みます。

そうして三角とエリカは互いを励ましながら貯金箱に入っていくのですが、この作戦、私はちょっとなぁ…と思ってしまいました。いくら冷川が最低な人だとはいえ、作戦が失敗して周りに被害が出たら、三角はどうするつもりだったんだろう…。冷川に協力を仰ぐべきだったのでは…

と思ってたら、案の定赤い煙が外に出て、謎の事件が起こってしまうし…

まあでも、そういうピンチ的なシーンがないと盛り上がらないか……。

エリカは昏睡状態、三角も倒れそうになったその時、ようやく冷川が駆けつけてくる。

自分はいや初めから呼んどけや！と思ってしまった…主人公何考えてるの…でもとりあえず冷川さん来てくれて助かった。冷川さんの安心感凄い。2人は前に突き進んでいきます。

しかし糸に絡まった望遠鏡を見つけた瞬間、冷川の顔色が悪くなっていきます。三角窓を発動させると、冷川の子供のころの記憶がよみがえってきます。

冷川は幼い頃、エリカと同じ宗教団体に囲われていました。狭い高台に閉じ込められ、万華鏡だけを渡され、学校にも行かせてもらえない。唯一頼りにしていた母親からは「様、あなたは私の子ではありません。私はあなた様の信者なのです」と言われてしまう。それは冷川にとって、とてもショッキングな出来事でした。

これはアリアスター監督「ヘレディタリー」を連想させられますね。宗教に母親を奪われる息子。子供にとって母親は本当に唯一の心の柱ですから、それが安定していないと子供は簡単に逃げ場をなくします。

ヘレディタリーの記事はこちらから

【映画】ヘレディタリー～継承～の何がそんなに怖いのかを科学的に解析してみた！ネタバレ&解説✍︎︎ - 𝑀𝑜𝑣𝑖𝑒𝑠〜映画を観まくっている日々〜

　信者は冷川に呪いの方法を教えます。教えに背いた信者を殺すためです。しかし冷川は、目の前に差し出された信者だけでなく、教団全員を呪うことを決意しました。

　呪われた信者たちは冷川に操られ、叫びながら互いに殴り合ったり、包丁で刺しあったりと、犯罪行動を繰り返します。まさに地獄絵図。

　冷川は母親の姿を探しますが、母親は信者に殴られ、殺害されてしまいます。ショックのあまり冷川は記憶をなくし、呪いの力を貯金箱の奥底に閉じ込めたまま、キッチンに隠れてしまいます。

その出来事をずっと忘れていた冷川は、三角窓から姿を消してしまいます。焦った三角は、冷川を探すため、記憶の中の施設に迷い込みます。

　この展開はかなり予想外でした。ホラー的要素は幽霊だけかと思っていたのですが、まさか宗教団体だったとはだったとは……。ここで冷川が刑事に言っていた「信じない方がいい」という言葉がよみがえってきますね。

冷川にとって

信じるとは「悪」である、

　というイメージがあったのでしょう。妄信は悪にもなりうることを、自分が閉ざしていた記憶の奥底で理解していた。そして三角とは、宗教団体が利用していた建物の階段の形だったことがここでわかります。

　つまり、もともと冷川は無意識に三角窓（＝自分の消した記憶）を求めていて、それがたまたま三角の波長と一致した。→運命

ということでしょうか。

　ジョジョのスタンドみたいに、もし人の超能力に具体的なイメージがあるとしたら、三角はたまたま三角窓のスタンドを持っていて、それが冷川は気に入った、的な……。冷川は自分の過去を誰かに見てほしかったんですね。

人を通じて自分のトラウマに向き合っていく

　三角はキッチンにうずくまっている冷川に自分の過去を語り、「自分を見つけてくれてありがとう」とお礼を言います。

冷川は、自分を救ってくれる運命の人が三角であったことを知ります。

このキッチンでの会話を通して、冷川は「孤独じゃない」と思うことができたのだと思います。だから三角の手を取った。これからの自分の未来を信じて。

冷川の他人に対する呪いの気持ちは、いつのまにか無くなってしまいました。だから呪いは消え、万華鏡を取ることができた。

物語は終盤になり、二人は交差点で笑い合います。

　結局この映画は何が言いたかったのか？　それは「自分の信じるものを見極めろ」ということではないでしょうか。宗教、呪い……それらは時には人の命を奪います。

　日本の宗教による殺人事件といえば、地下鉄サリン事件ですよね。あれも妄信的な信者が起こした過ちです。何かを過度に信じるのは、時に悲劇を起こすことになる。

　今のインターネット社会では、不確かな情報が大量にあふれています。誹謗中傷、罵詈雑言。それらは本当に正しい言葉でしょうか？　インターネットだからって、そう簡単に人を貶していいのでしょうか？

　なにが正しくてなにが間違っているのか、よく注意して生活していきたいものです。

　また、呪いという言葉は呪術回戦でもテーマにされていますよね。最近はやりの曲、Adoの「うっせえわ」が人気なのも、社会にうっぷんを抱えている若者たちの叫び声のように感じられます。

余裕のない現代社会で、私たちが呪いという感情から解放される日は、果たしてくるのでしょうか。

 　出会った交差点で、二人は再び出会うという演出も、おしゃれでぞくっとしました。まるで一つの音楽が終わったかのようでしたね。

　視聴者は三角の立場になって、冷川に導かれて非現実の世界を覗くことができたのではないでしょうか。

 

三角形の意味

　三角形は最も安定した図形と言われています。

　建築ではよくつかわれる知識で、椅子を立てる時なんかも、この三角形をつくることが多いそうです。

　万華鏡も三角形の紙がたくさん入っていましたよね。三角形を見ると精神的に安定したのかもしれません。

　つまり三角とは二人にとって「安定＝安心できる場所」であり、また「夜」ということは「昼（日常世界）」からの逃げ場」という風に考えられるのではないでしょうか。

外側の夜、すなわち「日常世界の裏側（霊がいる世界）の夜（誰も干渉できないところ）」……日常と非日常の両方を持っている二人にとって、そのどちらからも逃げれるコンフォートゾーンのようなところだったんだと思います。

ラストのエリカの腕の意味は？続編はあるのか？

　エリカが学校でぼんやり授業を受けていると、エリカの腕が突然痛み出します。不審に思ったエリカが袖をめくると、そこには黒い入れ墨のような模様がびっしりとありました。エリカが汗水を垂らして、この物語は終わります。

　この意味深なラストには、いったいどういう意味があったのでしょうか？

　私が思うに、エリカの呪いはまだ続いていたのではないでしょうか。というのも、エリカはいままでにたくさんの人を呪っています。その副作用が遅れてやってきたのかもしれません。

誰かほかの霊能力者に呪われたのでは？　

別の超能力が発現したのでは？

続編のための伏線？

など、あらゆる可能性が考えられますが、真相は謎のまま。

原作では

監督曰く「続編を作りたい」とのことなので、今後の展開に期待したいなと思います。

 

今音楽業界の中で異彩を放つアーティスト「ずっと真夜中でいいのに」

zuttomayonakadeiinoni

ぐされ(初回限定LIVE盤)(1CD+BD (STREAMING/DL))

【応援店特典あり】 ずっと真夜中でいいのに。ぐされ 【"強"初回限定DELUXE盤】 2CD+GOODS 応援店特典ｵﾘｼﾞﾅﾙ8bit(ﾌｧﾐｺﾝ風)ｱﾚﾝｼﾞCD(2曲入り)

主題歌を担当したのはボーカルACAねが担当するバンド「ずっと真夜中でいいのに」

今回の映画のために書き下ろされた曲はオープニング「過眠」そしてエンディング「黒く暗く」。

彼女の繊細かつ大胆な歌声は、この映画をより美しく非現実的な雰囲気に作り上げていました。とってもきれいな歌声に、聞きほれてしまった人も多いはず。この２曲はアルバム「ぐされ」に収録されています。

最後に　もうちょっと脚本に深みがあれば、よりいい映画になったと思う

全体的に緊張感のある、面白い映画だったと思います。これを見る前に三国志を見たのですが、寝てしまったので（汗）いい意味で目が覚めました。

　映像もいい、音楽もいい、しいていうなら脚本ですかね……。

　ただ終始登場人物が淡々と話すだけで、能力の詳しい解説がなかったので、全体的にふわっとした印象になってしまっていると感じました。もうちょっと細かい心情が分かれば、この映画をより楽しめたんじゃないかと思う次第です。

脚本は「重力ピエロ」の相沢友子さんだったため、謎を追及するよりその場の不可思議な雰囲気、うつろな空気を醸し出す脚本、といった印象です。

緊張したシーンでも、特別気の利いたことを言うわけでもなく、その場のノリで突き進んでいったというイメージ…北川景子はなぜあんな早く殺されたの……。

また「運命」という言葉も個人的に違和感がありました。確かに冷川にとって運命という言葉は大切なものだったかもしれないけど、男同士でそう容易く運命って言いますかね…やっぱりBLが好きな女性を集めたいのかな…なんて考えてしまいました。

それでもグロシーンのリアルな描写には手を抜かないところ、雰囲気に合わせた切なくも美しいサウンドトラックなど、自分が好みだなと思うシーンもいくつかありました。個人的には結構好きな映画です。

平野ちゃんが呪いの力に突き進んでいくシーンは凄く力が入っていたのを覚えている……あとさんの刑事のキャラが終始よかった。やはり役者ですね。

個人的には三角は志尊淳じゃなくて、もっと暗い少年……みたいな見た目のほうが冷川とギャップがついてよかったんじゃないかな……。お互い美しいイケメンだから、あまり「ないものを補った関係」という感じがしないんですよね。笑えるシーンはあまりなかったので、楽しいバディものが好きな人にはあまりお勧めしません。

主人公が女の子だったらもうちょっと納得できたかな…男の子にしては弱々しすぎるのでは…いや、そういう子だと断言されたら何も言えないんですけどね。イケメン好きな人は観た方がいいかも……。

邦画はもっと作品にお金かけて……。

（画像引用：映画.com）

おそ松さん3期はなぜ面白くない、つまらないと言われてしまうのか

2016年に放送され、アニメ史に歴史を刻んだアニメ「おそ松さん」。

おそ松さん　公式サイト

現在３期が放送中ですが、最近「３期は面白くない」という意見を観ることが増えました。円盤売り上げが一期が１万代に乗ったのに対し、３期は５０００枚以下と低迷。一体なぜここまで低迷してしまったのか？今回はおそ松さんのファンであった私が、その理由を考察したいと思います。

注意　この記事は客観的にファンが考察したものです。公式を揶揄する内容を不快に感じる方は閲覧をお控えください

鬼滅や呪術が人気すぎて、目立たない

最近話題沸騰中の「鬼滅の刃」「呪術回戦」この二つがアニメ好きの中では常に話題をとっています。その競争に、松は勝てなかった。これは結構影響ありますね。１期の時はたくさんの子供が松にハマっていましたが、３期ではあまり見かけません。もちろん松が全く見られていない、ということではないのです。このアニメ競争時代で、アニメが生き残っていくには、よっぽどの才能、そして運がないと難しいと言えるでしょう。

腐女子の解釈違い

2016年に放送された2話、「就職しよう」で、「おそ松さん」は女性の間で爆発的にヒットしました。 その理由の一つに、むつごの次男「カラ松」と四男「一松」のカップリングがあります。

一松とカラ松

６人が居酒屋でお互いが就職ついて相談する会話で、あるシーンで、カラ松が痛い発言をします。すると四男一松がその襟を掴み、カラ松を睨みます。

一見なんてことないシーンです。しかし掴みかかった一松に、眉を下げて何も言えないカラ松…という構図が、腐女子にとっては十分魅力的に映りました。以降、「ガラが悪い四男」と「気が小さい次男」のカップリングが一気に熱を帯びることになります。

そして「カラ松事変」によって、「兄弟の前で意見をいえないカラ松」が、よりカラ松のイメージとして定着されることになりました。 他にも「兄弟依存」「ほのぼのストーリー」「学生松」など、おもにむつごの日常的な二次創作がインターネットの間で流行り続けていました。

しかし、二期一話が放送され、雲行きが怪しくなりました。そう、腐女子・女性ファンへのヘイトです。

公式は、自分たちが応援してくれたファン・腐女子を現実が見えない痛い集団と描写してしまったのです。

比べておきたいのがアメリカの風刺アニメ「サウスパーク」。シーズン１９で、キャラとキャラのカップリングを無理矢理作る腐女子が描かれる回あります。

サウスパーク

サウスパークのレギュラーメンバーでもあるクレイグが、自分を勝手にカップリングするアジア系の転校生に対し、「なんでこんなことをするんだ」と問いただすシーン。そして主人公たちは「彼女たちはゲイじゃない二人をなぜゲイにするのか？」と戸惑う描写が、ファンに衝撃を与えました。

これに対し公式は「なんやかんやこの2人のおかげでサウスパークが人気になった。だから感謝しているよ」と、腐女子に対して好意的な意見を述べているんです。

一方松はどうでしょう。腐女子やファンの声に耳を傾けず、「自分たちはファンの意見を聞きたくない！面白くないというやつはでていけ！」という姿勢を貫いているように見えます。（もちろん腐に媚びる展開もたたかれるのですが）そして心のどこかで「あっでも面白かったらチャンネル登録してね！」みたいなところがある。そんな気がするんですよね…松…。いや宣伝だけはするんかい。みたいな。

そんな公式を応援したいと思えるでしょうか？もちろんそれが面白い、自由な姿勢がいい！と評価する人もいると思います。しかし大抵のファンは、ニート童貞のむつごを養う感覚で彼らを応援してきたはず。どれだけお金を与えても、それをないがしろにして好き勝手やっていたら、当然応援するのも疲れるでしょうね…。

というか、どうしても腐女子や女性ファンを大切にしている感じがしないんですよね…。いや、多分サウスパークみたいに風刺にしたかったんでしょうが…。一期で集めた女性ファンに喧嘩を売ったら、当然女性ファンは離れていきます。そうなると、残るのは純粋にむつごやギャグが好きな女性、男性。キャラ萌えで人気をとってきた１期とは違い、ギャグが面白いかつまらないかという、なんともシビアな評価によって視聴率が左右されます。つまり、３期の視聴率がキャラ萌えなしの本当の世間のギャグの評価ということになってしまいます。（めちゃめちゃ厳しいな…。）

そしてカラ松と一松のキャラ変。次男は２期、３期になるにつれ自己主張ができるキャラ（「ピザ」参照）に、四男は猫好きの大人しいキャラになりました。これが同人界隈に与えた影響は結構あると思います。

また、下ネタ過多という爆弾も投下され、松はより２期で女性ファンを遠ざけることになってしまいました。 むつごの若いノリを聞いてると、ターゲットは学生くらいなのかな、と思いましたが、下ネタが酷いと学生は近寄りづらいですよね…。

学校で「昨日の松みた！？」と盛り上がることも難しくなるでしょう。 女性は作品をみんなで楽しむ風潮がありますから、一旦女子が離れるとその過疎化は尋常じゃないくらい広がるということがよくわかりました。

サウスパークを日本という島国でやる、という挑戦が外れた

風刺アニメといえば、アメリカの「ファミリーガイ」「サウスパーク」。しかし日本ではあまり流行っていない印象があります。日本で風刺アニメが流行らない理由は、主に二つあると思います。

１. 日本は同調圧力が強いから……仲間内で「面白いよね～！」「逆にあれはつまらないよね～」と言い合う、と言ったように、みんなが同じ意見をいいたがる文化が根強い日本。その中であちこち喧嘩を売る手法をとるのはちょっとまずい気がします。１回敵を作ると、それにみんなが同調して、反対勢力がぐっと減ってしまうという難点があるからです。

２. 日本のお笑いセンスが海外とは異なるから……脚本の松原さんはお笑いの脚本を書いている方です。そして「おそ松さん」では、カラ松→トド松→チョロ松（たまにおそ松）と、結構扱いが酷い松がいるのが見受けられます。（最新話ではチョロ松が大分可哀想なことになっていた） こういう「一人扱いが酷い対象を作る」という構成は、日本のボケ突っ込み文化からきているのではないでしょうか。 例えば女芸人を貶す笑いってありますよね。そういうコンプライアンスを、確かに３期は題材にしていましたが、キャラを変えるだけで全く改善していないんです。もうこれは日本のお笑いがそういう形だからと考えるしかなさそうです。

「サウスパーク」はブラックジョークが多いですが、それに比べ、松のブラックジョークって凄くわかりにくい…というか、そもそも風刺なのかコントなのか、その境界性がよく見えない。 風刺をやるんだったらきっぱり「これは風刺アニメです」と銘打ったほうがまだわかりやすい気がします。そして風刺アニメは人を選ぶので、人気が下がるのはもう仕方がないとしか言えないでしょう…。

自分はサウスパークがとても好きなんですが、松３期はどうもなじめませんでした。１期２期のほうが楽しめたタイプです。 とはいえ、３期のほうが２期より下ネタがなくなって、内容が深くなったから好きという人がいるのも事実。結局面白いと思うかは受け手次第ということですね。

脚本やシナリオを複数人でやらない・ネタ切れ

おそ松さんのギャグは、ある程度パターンが決まっている印象があります。

例　 「戒め！」「流刑」「死刑」などの造語 キャラが死ぬオチ 十四松が予想外の行動をする ショートコント

このノリをひたすら繰り返す訳ですが、３期になるともうだいぶネタ切れしてきたな…という印象です。コロナだから仕方ないかな、とは思っているのですが、投げやりなオチ、意味もなく独創的なワードを繰り返させるだけ…一番困ったのは長男おそ松が死ぬオチです。もうちょっと死ぬ以外にオチつかせることはできないんでしょうか…？

あとドラマCD,なごみ探偵の回はさすがに手を抜ききすなんじゃないか…。

コメディを作る時は流行りを意識する必要があります。当時の時事ネタ、人々が何に感情を奪われているのかを追う必要があるんです。

なので複数人とやり取りをして「本当にこれは面白いか？」と何度もネタをすり合わせると、いい作品ができることがあります。

しかしどうやら脚本は一人体制らしい。一期のように２～３人でシナリオを描いた方が絶対に面白いのに、それをやらない理由がわからない…。

おむすびがつまらない？

三期から登場したAIニート「おむすび」のシャケとウメ。彼らに感情移入できない、好きになる要素がないという意見も多かったです（個人的にはニート化してからはめちゃめちゃ好きです）しかし、ここで離脱したファンは多そうです。AIにキャラつけするなら、例えばキャラともっと個人的に絡ませるとか、抜けたところをだす（かわいらしさを見せる）とか、色々あったと思うんですけど、なぜ理詰めキャラに…。

普段日常生活にうっぷんを貯めていて、「せめてアニメの中だけでもニートを楽しむか…」と思いながら松を見てる人も多いと思うのですが、そんな時に「ニートはダメ」「現実をみろ」と言われても、なんかな…人は現実逃避するためにアニメを見ているんですが…。

現実を見るなら、例えばむつごが回を重ねるごとに少しずつ就職のステップアップをしていく、とかならまだ応援できたと思います。もしかしてむつごに感情移入する視聴者＝ニート、学生とは思ってないですよね、公式…。いやそんなことはないと思いたいんですけど…。

時代背景（コロナ社会）と合わない

このコロナで国民全員が一致団結して頑張ろうという時に、OPが「頑張りたくない」ですからね…。いや頑張れや！ってなります（笑）そこだけはちょっとタイミングが悪かったなあ…って思います。

キャラクターデザインが変わった

絵といえば、私がおそ松さんを観るきっかけの一つに絵がありました。そのかわいらしい絵柄、独創的なアートスタイルに惹かれたのですが、これも３期になってかなり普通になってしまいました…。二次創作で絵を描く人なんかは、こういうところも凄く見ていると思うんです。

いろいろ言ったけど、それでもおそ松さんが好きな人はたくさんいる

おそ松さん

１、２期と違って、むつご達も少し成長し、全体的に内容が深く、大人向けの作品になったな、と思いました。というか、あえてファンを減らしたいのかな？と思うことも。

１期２期と比べて、どうもファンと一緒に盛り上がろう！っていう気が感じられないんですよね…（その割には公式のノリがファン参加型というのも気になる…自分たちの信者を集めて囲いたいんでしょうか。そういうところが私はあまり乗れないな…）

きっとこういうダークさを纏った松も好きという人もいるでしょう。３期になって、６人はより血の通った、人間味のあるキャラクターになりました。そういうところが受け付けない、もっとかわいらしいむつごを見ていたい、という人は、今後の松を観るのが辛くなってくるかもしれません。

しかしこのアニメのいいところは原作がないところ。公式がどんな手法を使ってくるかは結局最後まで分かりません。そして面白いか面白くないかは、完全に観た人の主観になっています。気になる方はぜひ実際に三期を見て、面白いか面白くないか、確認してみてくださいね。

普段は映画の考察をしています cheeeeeez.hatenablog.com

【映画】ヘレディタリー～継承～の何がそんなに怖いのかを科学的に解析してみた！ネタバレ&解説✍︎︎

ついに見てしまった…。アリアスターの傑作「ヘレディタリー～継承～」

ヘレディタリー　映画.com

いや～、歴代ホラー作品に食いこむという話は本当だった…。ふぁんしーあいらんどを趣味で見て、毎晩怪談を聞いていた自分が見ても、信じられないくらい怖かったです。

そもそもこの映画はなんでここまで怖いのか？そして作中の「コッ」や「絵」そして「いけにえ」「王」について、解説していきたいと思います。

あらすじ

グラハム家の祖母・エレンが亡くなった。娘のアニーは、過去の出来事がきっかけで母に愛憎入り交じる感情を抱いていたが、家族とともに粛々と葬儀を行う。エレンの遺品が入った箱には、「私を憎まないで」というメモが挟んであった。アニーと夫・スティーヴン、高校生の息子・ピーター、そして人付き合いが苦手な娘・チャーリーは家族を亡くした喪失感を乗り越えようとするが、奇妙な出来事がグラハム家に頻発。不思議な光が部屋を走る、誰かの話し声がする、暗闇に誰かの気配がする・・・。やがて最悪な出来事が起こり、一家は修復不能なまでに崩壊。そして想像を絶する恐怖が彼女たちを襲う。一体なぜ？グラハム家に隠された秘密とは？

(引用　Filmarks)

キャスト

アニー・グラハム - トニ・コレット
スティーブ・グラハム - ガブリエル・バーン
ピーター・グラハム - アレックス・ウルフ
チャーリー・グラハム - ミリー・シャピロ
ジョーン - アン・ダウド

解説の前にピーター役アレックスウルフと、チャーリー役ミリーシャピロのオフショットを。

ヘレディタリー　引用　YouTube「FilmIsNow Movie Bloopers & Extras」

いやミリーシャピロかわいいね？！！！

二人が一緒に腕を振るのかわいくて…いい。本編でもさぞ仲のいい兄弟だったんだろうな～（すっとぼけ）

この映画あまりにも怖かったのでなるべくテンション明るめに、元気に解説していきたいと思います。

そもそもアリアスターの作品はどうしてあんなに怖いのか？

世の中にはさまざまなホラー映画がある中、なぜアリアスターの作品はここまで絶賛されているのか？それは視覚と聴覚で人の潜在的恐怖をあおるのが上手いからだと言えるでしょう。

図でわかりやすく説明するとこのような感じ。

アリアスターの恐怖

普通は「不気味なサウンド」の後は「何かが」起こるのがホラー映画の定番。だからホラー映画を見慣れた人は「おっ、今から幽霊出てくるな」ってのが経験から分かるんです。

ところがこの映画、「特に何かが起こるわけでもないのに、不快な不協和音がずっとながれ、結局なにも起きない」みたいなことがひたすら繰り返されます。

つまり、どこで怖いシーンがあるのか全く予想できず、ただ緊張だけたくさんする羽目になります。

人間は予想不可能な緊張状態が続くと自律神経が疲労し、不安になります。つまり、アリアスターは科学的に人を不快にさせている（褒めてる）のです。

私は音楽が好きで、一度コード進行というものを勉強したことがあるのですが、コード進行について知っているとこの作品がいかに不気味かわかると思います。

人というのは音楽に対し安定を求めます。イメージするなら登山。上ったらかならず山場があり終着点があります。しかしアリアスターの映画の音楽はこのコード進行がでたらめで、不協和音の連続です。

アリアスターはこのコード進行を不安定に調整するのがめちゃくちゃうまい。人が落ち着かなくなる音の組み合わせもピンポイントでわかっています。

作中序盤、リコーダー演奏のBGMが流れるのですが、この曲もコード進行がでたらめ、それもわざと終着点に行かせない変な曲になっています。子供が演奏するような、とかそんな話じゃないんです。

まるで黒板をひっかいたような不快な音の組み合わせを、絶妙にチョイスしてくるのです。これが「ヘレディタリー」を見てて体調が悪くなる理由です。

視覚的にも強烈なインパクトを与えてくる

ミッドサマーにも不気味な絵、オブジェクト、そして人間の部位を使ったアートがありましたが、これらを多用するのがアリアスター風。なぜこんなにも怖いのか？それは、

「①不自然なものだから」「②単純ゆえに記憶に残りやすい」「③斬新なカメラワーク」

この３つに理由があると思います。

①不自然なものだから

例えば背景美術。映画の背景というのは、その人が住んでいるような空気感を演出させなければなりません。使い古されているコップ、曲がった椅子、垢が残った食器など。しかしこの映画の家は人が住んでいるにも関わらず、いやに整理されすぎている。まるで誰かが出入りして、わざと家具を整えたかのように。

また、チャーリーが描いた絵もなぜか父親のあごが異様に伸びた絵がありましたが、これも

平均的な顔立ちから逸脱している→普通と違う→不安を与える

という心理的トリックが使われています。

また、母親が何度も頭を打つ行動は、初めて見た人にとっては全く理解できません。（のちに首を切り落とすためだとわかりますが）人は虫のように理解できない予想外の言動をするものには警戒する傾向があります。

だから、この映画はストーリーなんて大して追わなくても、見てるだけで十分人を不安にさせるのです。

②単純故に記憶に残りやすい

ホラーの幽霊は特殊メイクなどで血のりするのが一般的。そのほうが、人はまだ安心感を得られます。血のりや腐敗は、生き物として自然であり、当たり前だからです。

ところがアリアスターが使うイラストは二次元的。これは記号化とも言えます。

〇、△、◇といったような、単純な図形のほうが、脳は記憶しやすいです。だからこそ、ネックレスのような記号や絵をアリアスターは好んでいるのでしょう。「視聴者が目を閉じたがるなら、記憶させちゃえばいいじゃない！」という訳です。えげつない。

③斬新なカメラワーク

これもアリアスターのこだわり。上下逆さの演出は「ミッドサマー」にもありましたが、上下に変えたり４５度角度を変える演出は、色んな映画を見てきた私でもなかなか見たことがありません。こういう斬新なテクニックは、人々に強烈な印象を与えます。

視覚的にも聴覚的にも責められると、まさに無理矢理目を開かされてる状態になってしまうという訳です。逃げようがない。

「ヘレディタリー」の意味は？なぜ継承する必要があったのか？

ヘレディタリーという言葉は英語です。日本語では「継承」。

意味はチャーリーに宿っていた悪魔、デイモンの魂を、後継者ピーターに継承するまでの物語だからということでしょう。

この映画は、簡単に言えば「悪魔召喚」をしていた

日本のホラーと言えば、貞子とか妖怪ですよね。しかし海外のホラーとして有名なのは悪魔です。そして、悪魔を払う職業の人は悪魔祓いと呼ばれます。

海外のドキュメンタリーでもよくあるのですが、昨日まで明るかった普通の子供がある日突然暴れだすということがあるそうです。そのために、子供の親は悪魔祓いという職業の人を呼び、悪魔祓いをします。（日本で霊媒師が除霊するのと一緒）

日本ではあまり悪魔って浸透していないんですが、実は西洋では結構メジャーなジャンルなんです。

チャーリーは事故死でなく他殺だった！そして「コッ」の意味とは？

チャーリーの死ぬ直前、ぶつかった電柱の印。これは電柱に呪いがかけられていたのです。チャーリーが事故ではなくショーンかほかの信者によって首を切られたことがわかります。

もともとチャーリーは祖母のいけにえにされる存在と語られていました。

ただ、ピーターは事故後、ピーターは「喉がつっかえるよう」と表現しています。

チック症状ですので、もしかしたらチャーリーという女の子の自我はベイモンとは別にちゃんと存在していて、その摩擦にストレスを感じていたからチック症状がでた？という説も考えられます。

しかし①ハトの首を切り落とした②死後もベイモンの魂としてピーターを追い詰めた③生まれた時から泣かなかった④祖母に好かれていたという事実から、チャーリー＝生まれた時からのデイモンということで間違いなさそうです。

では、なぜベイモンはハトの首を切り落としたのか？

ハトは象徴学的には平和な象徴です。つまり、この時平和が悪魔によって断ち切られた、ということを意味しています。

精神病をテーマにしているという説について考える

アニーは夢遊病と言われていました。また、グループカウンセリングでアニーが、彼女の一家がもれなく精神科にお世話になっていたことが明かされています。

つまり、一家はもともと精神的に脆弱だった。それゆえに宗教にのめり込みやすい体質があったと言えます。だから祖母(エレナ)もアニーも、この宗教にはまってしまったのでしょう。彼女たちにとって、

この世＝地獄

人（自分たち含め）＝悪魔

自分たちの病気＝忌まわしい存在

であり、ベイモンはその病気を払うような存在でもあった、という説。

彼を王にして気に入られば自分たちがこの地獄でも救われると信じていたのではないでしょうか。

エレナの写真も、信者に囲われて嬉しそうにしているのが、自分が一番でありたいという気持ちの表れのような感じにも見えました。これは家族問題でもよくあることなのではないでしょうか（認められたくて何かに没頭し、家族をないがしろにしてしまうという問題）

アニーは最後にはベイモンの魂に操られ首を切り落とします。一見悲惨ですが、この死は彼女にとって希望だったのかもしれません。

首無し死体はなんだったのか？ 

これは干し首という儀式がモデルになっているんじゃないかと思いました。

干し首の制作は本来は宗教的な意味を持っていた。

干し首は敵の霊魂を束縛することにより、制作者への奉仕を強制するものであると信じられていたのである。

つまり首を差し出すことにより、より相手の霊をこの世に呼び起こし、一族に奉仕させる、ということ。これをヘレディタリーに当てはめると、

一族の女性の首を差し出す＝男性の霊（ここでは精神ということにします）を強くする→一族に貢献させる（一族を繁栄＝ヘレディタリーさせる）

ということになりますね。

この映画をめっちゃわかりやすく言えば女性の首があればあるほどベイモン様が喜ぶとかええやん！首落とそうぜ！って話なので…。

イメージとしては、弥生人が卑弥呼様に鏡を献上して、お米がたくさん実るよういのるのとまったく同じです。首より鏡のほうがいいけど。

また、一族の敵（＝精神病）という話をしましたが、この病気を治すという意味でも、この儀式を行っていたのではないでしょうか。

「女性が男性に首を差し出す」という設定はアリアスター監督のオリジナルの設定だと思いますが、「ミッドサマー」でも女性が男性に献身していましたね。監督は失恋経験から女性になんらかの鬱屈とした感情をもっているそうなので、このやろ～～～元カノ～～～これを見て震えろと思っていたのかもしれません（笑）

ミッドサマーで女性が裸で男を囲うシーンも、宗教的には新鮮な命（生命エネルギー）を集めることにより、よりそのテリトリーの気を高めることができる、ということなのではないでしょうか。

「ベイモンの魂」って何？ベイモンを憑依させて何がしたかったの？

作中によく出てくる「ベイモン」。もともとは地獄の王だったそうで、召喚者に地位を与え、人々を召喚者に従わせるようにすることができるそう。

つまり、ピーターにベイモンを憑依させ王にすることで、信者たちを王に従わせるようにした、ということだと思います。

ちなみになぜこのベイモンをアリアスターが題材に選んだかと言うと、アリアスターはオカルトに傾倒していて、「十字架とかみんなが一発でわかるやつじゃない、誰も知らないような悪霊の象徴ないかな～～～」と、探した結果がベイモンだったそうです。

光とはなんだったの？

公式サイトには「エネルギー」と書いてありますが、いやなんのこっちゃって感じなので、もっと砕くとエネルギーというより魂です。日本でいう人魂です。海外に人魂はありませんが、似たような意味で問題ないかと思います。

こッ、という音でピーターはチャーリーの存在を認識していた訳ですが、ベイモンの力はどんどん強まって、やがて光として可視化できるまでになったぜ！やったね！ということです。

ラストでピーターの憑依が成功したデイモンが、ガラス越しに笑っていたのも、自分の力が強まったことを喜んでいたワンシーン。

ミニチュアにこめられた意味は？

ヘレディタリー　映画.com

 作中でアニーが作っていたミニチュアは、チャーリーの死後、アニーの精神状態を反映するかのようにダークな作品になっていきます。

そして公式サイトには、「これはアニーがカルトという糸に操られるというメタファーである」という説明がされています。

アニーがどんどん白い服を着るようになったことから、この人形と彼女はイコールだったと言えそうです。

ラストのシーンは象徴学だった

ラストシーンは謎のシーンが多かったですね。なので各解説でまとめました。

神のような黄金の人形…頭部には信者が回収したであろうチャーリーの頭部が飾られている。チャーリーがもともと悪魔の魂を宿していたことから、女性であるが先祖的な意味で飾られたのではないか

竹…根で繋がった生命の象徴

首のない腐敗した死体…祖母の死体。新しい死体…首を切り落としたアニー。いけにえの象徴

裸の男たち…受け継がれていく新たな生命の象徴

小屋…家族という捕らわれた存在の象徴

王冠…ベイモンが降臨した証

この映画は「家族」をテーマにした映画

ヘレディタリー

アリアスターはインタビューでこう答えています。

古典を紐解いても、ギリシャ悲劇やシェイクスピアなど偉大な物語の多くは家族をテーマにしている。少なくとも自分の人生の中心には常に家族がある。家族は、自分にとって聖域でもあると同時に、罠として機能してしまうこともある。その存在をめぐる謎は増すばかりです。だからこそ映画を使ってその謎を掘り下げたいのかもしれません。

実際この映画の家族は不完全家族であるといえ、子供を常に不安にさせています。「生まれてこなければよかった」って言われてますからね、ピーター…

確かに、ホラー映画なんかでも死に直前に「お母さん」と言って死ぬキャラっていますよね。誰よりも自分を守ってくれる母親という存在が、一番の恐怖だったら？これは確かに怖い。いや本当に怖いよ、アリアスター！

あの小屋は全てセッティングだった？！

https://youtu.be/5YYlQYQvHP0

撮影で使われたアトリエは外でなく全てセッティング。監督曰く、「特殊なカメラワークをするため一から作った」そう。

最後に

簡単に言うとこの映画はポルターガイストものでしたね。しかしそれよりエレナの言動が怖かったな…。生きている人間が一番怖いというのは正にこのこと。

特に難しいトリックや謎というより、単にその方が怖く見えるからというような演出が多かったかなという印象。それから精神病的なテーマを取り扱っているので、もうちょっとそういう警告があったほうがいいんじゃないかなと思いました。ああいう状況になったら(自傷行為)普通は隔離病棟行きです。それなのにかたくなに病院に行こうとしない展開には少しイライラさせられました。

とはいえ、ラストがあまりにもばかばかしいので全て許してしまったんですが。アリアスター本当に象徴学好きだな！（絵も象徴みたいなものだしね）過去作で彼がどんな記号が好きか探してみるのもいいかもしれません。

また、この映画を「チェンソーマン」の藤本タツキ先生が好きなのも理解できました。悪魔継承の話、そして地獄の悪魔なんかも、このベイモンあたりからインスピアされてそうです。

ちなメイキング映像見たんですが、アリアスター監督が終始にっこにこで映像確認しててよかったです。（あふれる笑みを抑えきれていなかった）

期待通り、ホラーとしては極上品だったと思います。ただ個人的にはロマンホラーが好きなので、合わなかったかな…。ミッドサマーと違い、バッドエンドなのもあまり好きになれません。

フルハウスが好きなので、より地獄でしたね…これからフルハウスで口直ししようと思います。

しかし「人生で一番怖かった映画は？」と聞かれたら間違いなくこの映画をあげてると思います。

ミッドサマーと違い終始暗いので、見るときは明るい時間帯がおすすめです。

普段は映画の考察やっています

cheeeeeez.hatenablog.com