映画「ミナリ」ネタバレ＆感想 競争化強化する農業で子供を守る

キムチ！アイドル！極めつけに韓国映画！

韓国文化が進出した今、日本では韓国の映画が注目を集めています。

今回はゴールデングローブ賞、アカデミー賞の二冠を受賞した社会派映画「ミナリ」についてレビューしていきたいと思います。

minari

あらすじ

 1980年代のアメリカ南部を舞台に、韓国出身の移民一家が理不尽な運命に翻弄されながらもたくましく生きる姿を描いた家族映画。2020年・第36回サンダンス映画祭でグランプリと観客賞をダブル受賞した。農業での成功を目指し、家族を連れてアーカンソー州の高原に移住して来た韓国系移民ジェイコブ。荒れた土地とボロボロのトレーラーハウスを目にした妻モニカは不安を抱くが、しっかり者の長女アンと心臓を患う好奇心旺盛な弟デビッドは、新天地に希望を見いだす。やがて毒舌で破天荒な祖母スンジャも加わり、デビッドと奇妙な絆で結ばれていく。しかし、農業が思うように上手くいかず追い詰められた一家に、思わぬ事態が降りかかり……。

キャスト

スティーブン・ユァン

ハン・イェリ

ユン・ヨジョン

 制作会社は「ゴースト・ストーリー」や「ミッド・サマー」を手掛けてきたA24。多様性を取り入れていることでも有名です。監督はリー・アイザック・チョン。今作「ミナリ」で以下の賞👑を受賞しました。

インディペント・スピリット賞　（脚本賞、監督賞）

放送映画批評家協会賞 （監督賞、オリジナル脚本賞）

サテライト賞  　（監督賞、オリジナル脚本賞）　

英国アカデミー賞 （外国語作品賞　監督賞）

アカデミー賞　（脚本賞）

全米監督協会賞　長編映画監督賞

オープンバーム賞

NAACP（全米夕有色人地位向上協会） Image Award For Outstanding Writina motion Picture

 まさに総舐めといった感じですね。凄い。シンプルに。

こんなに大量の賞を受賞した「ミナリ」とは、いったいどんな映画なのか？早速「ミナリ」詳細を解説していきたいと思います。

ネタバレ＆感想　低賃金労働者に向けた静かな備忘録

【映像★★★★☆】　ノスタルジックなアメリカの荒れ地

８０年代のアーカンソー州の高原。のどかで自然豊か、どこか懐かしさを感じさせる風景と家々。古い木造タンスの引き出しやブラウン管テレビも印象的です。

【脚本★★★★★】　子供の将来、親の介護、二つの間で四苦八苦する父親と母親

いい点　様々な立場に置かれた人々の感情や仕草を完璧に切り取っていた

父親のジェイコブはアメリカ系韓国人。妻のモニカとひよこ鑑定士として、工場の雌雄鑑別で生活を立てていました。ダンシングや祈りを信じていない現実主義者ではありますが、１０年以上鑑定士を務めた努力家でもあります。ひよこ鑑定士としての仕事っぷりは一流。しかし彼はアメリカの土地で韓国の野菜を売るという夢を諦めきれませんでした。

監督曰く、アジア人は真面目で勤勉。主人公のジェイコブにもその素質がある、とのこと。

土地を借り、銀行の融資を受け、無職のと共に、開拓作業を進めることとなります。

一方モニカは「一人では子供の面倒を見切れない」「デビットに何かあった時に誰かがそばにいてあげないと」と、母親のスンジャを韓国から呼び寄せます。アメリカ育ちのデビットは韓国に嫌悪感を抱いていました。スンジャを「変なにおいがする（キムチのにおい）」と言ったり、自分の尿を飲ませたり。料理をせず、汚い言葉をつかうスンジャを祖母として認めたがりません。

しかしデビットが怪我をして出血した時、スンジャが「あんたは強い子だ」と元気付けます。常に大事にされてきた男の子のデビットにとって、この言葉はじわじわと胸に響きました。

それと同時に、デビットの韓国に対する差別意識も薄まっていきます。

ジェイコブは家族を蔑ろにし、経営に必死になっていきます。作物の納品が決まり、デビットの体調が回復したことで、ようやく一安心しますが、妻のモニカから「家族より仕事の方が大事なんでしょう」と、別れを切り出されてしまいます。しかしそれでも、仕事に

スンジャは脳卒中になってしまい、ジェイコブの育てた作物を不注意で燃やしてしまいます。一生懸命育てた作物を燃やされてしまったジェイコブは、結局水道調査を依頼し、デビットとミナリを収穫します。結局モニカとは別れずに、家族と新たなスタートを切ることを決めました。

【キャラクター★★★★★】　家族全員が生き生きとしていて、心を揺さぶられる

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いい点　違和感を感じさせない、血が滲んでくるようなシナリオ！

ミナリとは、韓国の食用芹のことです。韓国では親が子の幸せを願って植えられるそうです。

この物語において大事なのは、ミナリがどんな植物であったかということではなく、ミナリが息子デビットと祖母スンジャの絆を成長させた救世主であったことにあるでしょう。

ペットや植物の世話をすると、家族関係が良好になるといいます。

「おばあちゃんらしくないおばあちゃん」「韓国の植物」始めはそう毛嫌いしていたデビット。しかし終盤ではどちらも好意的にとることができ、スンジャと一緒にミナリの収穫作業を行います。

８０年代当時、アメリカで根強かった（現在でも問題視されていますが）韓国差別について、多くの問題提起があったように感じます。韓国人の顔立ちをしている子供たちが、アメリカ人の子供たちと打ち明けているシーン、工場で「韓国の教会はないの？」ときくシーン。娘のアンもアメリカ系の同級生と打ち明けていたのも微笑ましかったですが、アメリカ人の子供の父親がにこやかにしているシーンは、焦りを抱える移民のジェイコブと対比が効いていて、なんとも言えないシーンになっていました。

他にも、ジェイコブとビリーの関係にも注目したいところです。

ビリーは仕事に就いておらず、風変りでもあったため、ジェイコブの農作業を手伝います。またイー家に祈りを捧げてくれますが、ジェイコブはその好意を快く思っていませんでした。

終盤ではあまり描かれていませんでしたが、恐らくビリーはジェイコブの共同者として、一緒に農地を開拓していくのかもしれません。

悪い点　丁寧なあまり、起承転結が分かりにくかった

この映画は特に大きな盛り上がりがある展開はありません。最初から最後まで、邦画のようなゆったりした時間が流れる、サイレント映画。派手な映画が好きな方にはあまり受けないでしょう。また、映画というのは非現実に浸るために愛されるコンテンツ。現実をこれでもかというくらいリアルに描いた本作は、あまり大衆受けしないかもしれません。

価値がわかる人にはわかる。一部の大人にこっそり評価されるような作品。

また、デビットが友達と噛みたばこをするシーンがありますが、これはデビットが一段階大人になったことを表しています。しかしその説明については全く触れられておらず、観た人には「あのシーンは必要あった？」とも思いました。

【キャラクター★★★★☆】　地域コミュニティに焦点を当てた、鋭い観察眼×ユァン氏の怪演

アカデミー主演男優賞を受賞したスティーブン・ユァンは「ウォーキングデッド」にも出演すつアメリカ系韓国人です。ポン・ジュノ監督「オクジャ」では大企業の社員を、イ・チャンドン監督「バーニング　劇場版」では、その高い演技が評価され、ロサンゼルス映画批評家協会賞で助演男優賞を受賞しています。

「ウォーキング・デッド」では仲間想いのグレンを演じていました。

私はこのグレイというキャラがとても好きで、最早グレンが出るなら見る！というテンションで見に行ったのですが、実際「ミナリ」を観たら全然違うキャラだったので、とてもびっくりしました。

彼が主演男優賞を取れたのも、このグレンと正反対と言える人物を見事に演じ切って見せたからなのかもしれません。

「ミナリ」のジェイコブ→夢見がちな父親。病気がちな息子にも問答無用で体罰をする。上手くいかないと反発を起こすことも

「ウォーキングデッド」のグレン→シーズン初期から登場するドラマ内で唯一のアジア系で、主人公のチームとウォーカー（ゾンビ）と戦ういいやつ

グレンは正義感が強くてとてもカッコイイキャラ。（シーズン初期のころはかなり若いイメージがありましたが、今は大人の男性という感じですね）

銃を使うシーンも格好いいのですが、何よりも仲間のことを第一に考えるひたむきな姿勢に心を揺さぶられます。気になった方は是非ウォーキングデッドを観てほしいです！

【音楽★★★★★】主題歌を歌ったのは妻役のハン・イェリだった！

主題歌を歌ったのはモニカ役のハン・イェリが歌った。「Rain Song」まるで本当にアメリカの大地にいるような、豊かな気分にさせてくれる、美しい歌声。

ミナリ畑の草、水のにおいまで感じられそうです。

 

同時公開された「ノマドランド」との違い！どちらの映画が面白い？

３月に公開された、ハウスレス（ホームレス）の女性を描いた作品「ノマドランド」。こちらもアカデミー賞が噂されていました。結局「ミナリ」と「ノマドランド」のどちらを観ればいいのでしょうか？

結論からお話します。女性なら「ノマドランド」男性なら「ミナリ」をおすすめします。断然。

というのも、「ミナリ」は男性の出世欲、家族愛にクローズアップしているのに対し、「ノマドランド」は女性監督がメガホンを取っているからです。コンプライアンスが注目されている現代。どちらに大きな性差がある、とは言えませんが、共感しやすいという側面においてはやはりそのような視点にも触れていきたいところです。

女性の私から見ても、「ミナリ」はとことん男性向けだなあ、と感じました。

個人的には映画界隈では、「ミナリ」よりも「ノマドランド」の方が人気なイメージがあります。

これは余談ですが、「ノマドランド」ではハウスレスをテーマにしていますが、不景気・自宅生活が流行っている現代ではユースレス・ミニマリズム的な考え方が本当によく見られるな～と思いました。

前回の記事で、「100日間のシンプルライフ」という映画を紹介したのですが、こちらでも若者が没頭するミニマリズム・スタッフレスの暮らしについて解説しました。物が有り余っているにも関わらず、お金がない。若者は貧困に喘いでいる。スペースが狭い日本の土地で、いかに少ないものでオシャレに、かつ快適に暮らせるかが大事にされているという感じ。

「Style Factory」が進出し、スリーコインズ、ダイソーのラインナップも、無印やニトリをイメージしたようなシンプルな商品が増えています。シンプルライフは着実に多くの人の生活に侵入していると実感中…。

シンプルシンキングは日本だけでなく、アメリカにも広がっています。「タイニー・ハウス」というネットフリックスショーでは、住宅ローンが数年で済むという魅力から、若者が小さい部屋を買うという事例を紹介しています。

小さい家なら安く買える。とても堅実的かつ現代的な思想ですね。

ただ、個人的にはローンがかかってもある程度広いスペースがある家の方が、子供の発育にはよいような気がします…（シンプルなインテリアも、子供の発達の刺激になるのかな？とは思います）色々な視点で、条件に合った住まいが手に入ったらいいですよね。

 「ミナリ」はアカデミー賞から除外されるかもしれなかった

韓国語なのにアメリカ映画。その点に疑問を持つ人も中にはいたようです。実際ハリウッド外国人映画記者協会では、本作をアカデミー賞から除外する動きもあったそう。

この映画、良くも悪くも凄くアメリカ的なんですよね。西部開拓を目指すアメリカンドリームをテーマにし、差別や偏見を掘り下げているという。

同制作会社A24作品の「フェアウェル」のルル・ワン監督は「ミナリ」について以下のコメントを残しています。

「今年、私が見た映画の中で『ミナリ』以上にアメリカ的な映画はありませんでした。同作は移民一家についての物語です。彼らはアメリカで、アメリカン・ドリームを掴もうとしていたのです。アメリカ人は英語しか話さないという古くさい定義を変えなければなりません」

 また、「Glee」のダンサー・マイクを演じたハリー・シャム・ジュニアも、クエンティン・タランティーノの「イングロリアス・バスターズ」が非英語であると挙げています。

アジアだけでなく、メキシコ、スペイン。最早国籍を問わない作品がどんどん進出してきています。アカデミー賞はますます多様化を目指しています。様々な視点からアイディアを取り入れていくつもりなのでしょう。

とはいえ、なぜ「ミナリ」はアカデミー賞をとることができたのか

とはいえ、家族を題材にした韓国映画はたくさんあります。にも関わらず、なぜここまで「ミナリ」が絶賛されているのか？

アジア差別を取り上げたから、貧困家庭を取り上げたからか、もちろんそれもあると思います。しかしそれ以外にも、この作品が賞を獲った理由が考えられます。

「ミナリ」がここまで絶賛される理由とはなにか？

その答えは世代交代にある、と私は思っています。

現在日本で一番盛り上がっているともいえる漫画「進撃の巨人」ホラーの金字塔・アリアスター監督の「ヘレディタリー」。新海誠監督の「君の名は」そして今回の「ミナリ」。

この作品たちに共通することは「血筋」そして「家系」です。

巨人を継承する、血筋を追う、祖母の育てていた植物を次世代が育てるーーーそれは人々にとって未知の体験なはず。技術の継承、子孫への継承…それらに不安を感じない人は世界を探しても、ほとんどいないのではないでしょうか。

人は人から生まれます。卵から生まれたり、他の生物から生まれることはありません。名前があって、母親がいて、兄弟がいるーーー家族。それは人類が最も身近に抱える共通項であると言えます。いわばとってもなじみ深い話題。だから多くの人がこれらの作品に共感する。ミナリもその役割を果たしていると思うのです。

ミナリの公式サイトでは、ミナリという植物について、以下のように説明しています。

たくましく地に根を張り、2度目の旬が最もおいしいことから、子供世代の幸せのために、親の世代が懸命に生きるという意味が込められている

次世代に込めた願いが、ミナリには詰まっている、という訳ですね。

最後に　アカデミー賞納得の出来だった。見て絶対損はない

いかがだったでしょうか。読んでいる方に、「ミナリ」の魅力が少しでも伝わったら嬉しいです。

第93回アカデミー賞授賞式は、日本時間の４月２６日午前に行われるそう。主演男優賞を取ったユァン氏、そしてチョン監督のコメントが楽しみですね。

ここまで読んでいただきありがとうございました。普段は映画の考察をしています

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