【映画】「パラサイト〜半地下の家族〜」感想とネタバレ&考察！✍︎︎

第27回カンヌ国際映画祭、パルムドール受賞。若き天才ボン・ジュノ監督が放った、ノンストップの極上エンターテイメント映画「パラサイト」。

この映画を見たのは公開直後でしたが、2021年の元旦にNetflixで配信が始まり、1月3日に金曜ロードSHOWで再放送されることになりました。

去年映画館で観た時の衝撃は忘れられません。観るジェットコースターでした。

最初はコメディタッチで笑え、その世界にどんどん引きこまれていったのですが、中盤に差し掛かると、どんどん予想不可能な展開が盛り込まれていきます。そして後半は下り坂のように、一気に着地点に疾走します。

普段映画を観ていない家族さえ、「面白かった」「気になってみんなの感想を読んでしまった」と興奮していました。

120分、ドキドキが止まらない。そして展開は、誰も予想することができない。

Filmarks期待度ランキング1位獲得、そして様々な賞を受賞し、韓国ブームを巻き起こした「パラサイト」。

今回はそんな「パラサイト」がなぜここまで人気になったのか、そして物語にはどんな意味があったのかを書いていきます。

（以下、ネタバレ注意）

꧁꧁꧁꧁꧁꧂꧂꧂꧂꧂꧂꧂

キャスト

【脚本】

ポン・ジュノ　ハン・ジンウォン

【制作】

クァク・シネ　ムン・ヤングォン　ポン・ジュノ　チャン・ヨンファン

【出演】

ソン・ガンホ　イ・ソンギュン　チョ・ヨジョン　チェ・ウシク　パク・ソダム

あらすじ

過去に度々事業に失敗、計画性も仕事もないが楽天的な父ギテク。そんな甲斐性なしの夫に強くあたる母チュンスク。大学受験に落ち続け、若さも能力も持て余している息子ギウ。美大を目指すが上手くいかず、予備校に通うお金もない娘ギジョン… しがない内職で日々を繋ぐ彼らは、“ 半地下住宅”で 暮らす貧しい4人家族だ。

“半地下”の家は、暮らしにくい。窓を開ければ、路上で散布される消毒剤が入ってくる。電波が悪い。Wi-Fiも弱い。水圧が低いからトイレが家の一番高い位置に鎮座している。
「僕の代わりに家庭教師をしないか?」受験経験は豊富だが学歴のないギウは、ある時、エリート大学生の友人から留学中の代打を頼まれる。“受験のプロ”のギウが向かった先は、IT企業の社長パク・ドンイク一家が暮らす高台の大豪邸だった——。

パク一家の心を掴んだギウは、続いて妹のギジョンを家庭教師として紹介する。更に、妹のギジョンはある仕掛けをしていき…“半地下住宅”で暮らすキム一家と、“ 高台の豪邸”で暮らすパク一家。この相反する2つの家族が交差した先に、想像を遥かに超える衝撃の光景が広がっていく——。

引用　公式サイト
 

物語に出てくる登場人物

まず、この映画の登場人物は、ざっくりと「地上」「半地下家族」「地下」の3つの家族に分けることができます。

【地上】パク一家（豪邸に住むお金持ち家族）

　　父パク…有能なIT社長

　　母ヨンギョ…教育熱心な専業主婦

　　娘ダヘ…恋多き女子高生

　　息子ダソン…落ち着きがないが感受性が高い小学生

【半地下】キム一家（半地下に住む貧しい家族）

　　父ギデク…無計画でもなんとかなると思っている

　　息子ギウ…4回受験するものの学費がない大学生

　　母チュンスク…元飲食店、元ハンマー投げメダリスト

　　娘ギジョン…美大を目指す浪人生

【地下】

　　妻ムングァン…パク一家の家政婦

　　夫グンセ…ムングァンの夫。豪邸の地下で約4年暮らしていた

これを踏まえた上で、物語のあらすじ、構成を読み取っていきます。

【起】韓国の半地下家族の暮らしと、それでも陽気に生きる家族がコメディタッチに描かれている

半地下で暮らしているキム一家は、全員無職で、ピザの箱の梱包の内職で生計を立てています。

重要なのは、彼らは決して働きたくないと怠けている訳ではないということです。

韓国は競争社会に移り変わっています。日本の新入社員の就職率が9割に対し、韓国の就職率は6割と低め。また一家は、ピザ屋の若いアルバイトに「ここ折れ曲がってますよね？」と文句を言われますが、一家は苦笑いでやり過ごします。

若い上司に叱られると、誰だって滅入ってしまいますよね…。非正規雇用が促進している現代の日本にも、この光景は多く見られます。

韓国に限ったことではない、どの国にも起こりうる階層社会が、様々な年齢の人間を通してさらっと描かれています。そして、視聴者は「あるあるこういうこと、辛いよね」と共感することができるのです。

【承】畳みかけていくように人を騙していくキム一家。クライアントの居留守中に晩酌し放題

家庭教師、何の悪びれもなく嘘をつき、寄生していく半地下家族。

運転手の車にパンティを置いていくシーン、そして桃のシーン。ここでギジョンのしたたかな性格がばっちり描写されています。運転手さんはいい人だったのに可愛そうすぎる…この後この運転手さんは、就職することができたのでしょうか。

そんなことなどつゆ知らず、純粋なドンイク（パク）一家は、快くキム一家を迎え入れます。

起で家族に感情移入させておき、承で裏切る展開。普通の人なら良心が咎めるような詐欺行為をテンポよく描いています。

【転】不穏な展開から、明かされるドンイク家の地下。携帯争奪戦、洪水、そして殺人

くつろいでいると、家政婦のムングァンが訪問。隠し地下に案内されると、そこのはムングァンの旦那グンセが痩せ細った姿で見つかる。

旦那に食べ物を恵んで欲しい、と懇願されたチュンスクは冷たく否定するが、ギウ、ギジョン、ギデクが階段から姿を現してしまい、ムングァンは3人の写真を撮る。

（ここの北朝鮮ミサイルのネタもなかなかシュールなので、是非本編を見てみてください。

朝鮮スタイルで手を挙げさせられる4人。不法侵入、偽装、そして勝手に食料を盗んだという窃盗罪として手を挙げさせられます。

パク一家が帰ってくる中、4人はなんとか隙を狙って携帯を奪還しますが、チュンスクが誤って突き落としてしまい、ムングァンは脳震盪を起こす。グンセは怒りに震える。

　チュンスクのハンマー投げという設定がここに生きてしまうのが悲劇なんですが、実際はコメディのように描かれています。

携帯奪還後、洪水で半地下は流され、避難所で一夜を過ごす3人。ギデクはギウに「無計画こそベスト」と意味深なことを呟く。

息子の誕生日パーティー。それぞれの業務をこなす家族だったが、内心様々な思いを巡らせていた。

そんな中、復讐に燃えたグンセが地上に上がり、ギジョンを殺害。チュンスクがバーベキュー串で刺し、グンセは死亡。パク社長はギデクと協力して場の収束に努めようとするが、ギデクの洪水の臭いに「臭い」と顔を顰める。その表情を見たギデクは、娘に刺さっていた包丁を抜き、パク社長を刺し殺し、地下に逃げる。

　ここはジョーカー同様、犯罪者がどのように犯罪を犯すのか、その過程を描いていたといえるでしょう。

ここだけ切り取られただけでは、臭いと言われて激情して刺した男、と取られるのかもしれません。

しかし今まで見てきた起承が、ギデクとそれ以外の人間がどう相互作用を起こしていたのかを裏付けています。

【結】残された息子ギウと父ギデクの思いに胸が震える

残されたチュンスクとギウへの判決は、無罪。正当防衛とのこと。正当防衛で済んだの！？と思ったのですが、よく考えたら結局写真はバレなかったし、家族も余計なことを言いたくなかったのでしょう（騙されたと世間に知られたら恥になります）

ギウは山から家を観察していると、ギデクが家のランプでモールス信号を発していたことを知り、解読に努めます。

ギデクが地下でひっそり生活していることを知ったギウ。自分がいつか金持ちになって家を買い、彼を地下から出してやると決意して、この物語は終わります。

このラストに関してはまた詳しく解説していきます。

前半は結構コメディ色が強かったのですが、後半はかなりスピーディーに感じました。

人の目を忍んで地下を行き来しているシーン、携帯を奪い合うシーン、何よりも、パク社長を刺してから地下に向かうまでのギデクのカメラワークが芸術的で挑戦的でもあり、ハイセンスでした。

結果この映画は何を伝えたかったのでしょうか？そして、なぜこうも人々の心を惹きつけるのか？

貧困格差を描いた「パラサイト」は2020年に公開された「万引き家族」「ジョーカー」との親和性

ちょうどパラサイトが公開された頃、同じく貧困層を主役にした映画「ジョーカー」「万引き家族」が、それぞれ賞を受賞しています。

「ジョーカー」

「万引き家族」

映画.com

また日本でも、「東京貧困女子」という本が話題になり、都内に住んでいるにも関わらず、昼と夜の仕事を掛け持ちしている女性達が知られました。

国民全体が貧困に陥っている訳ではなく、一部の富裕層にはたくさんのお金があるのに、一部の貧困層にはまったくお金がない。そんな状況が、先進国で目立ってきています。

そしてその格差だけが大きく広がっていく…。この状態の社会を一般的に「格差社会」といいます。

韓国の場合もその限りではなく、金持ちはとことん金持ち、半地下の家族はとことん貧乏になっていく。そんな格差社会の連鎖は、一刻も速く断ち切らなければならない。

人にとって貧乏なことは死活問題ですから、この話題に人が注目しない訳はいかない。

そして格差社会を終わらせる金字塔として、このパラサイトはアカデミー賞を受賞したといえるでしょう。

作中に込められた数々の意図

パラサイトには本編で詳しく説明されていない、いくつかの隠された謎があります。そしてストーリーやキャラ、台詞に関する詳しい説明は一切なされていません。

今回はこの映画に隠された謎を解説、考察していきます。

高く設置されたトイレにはどんな意味があるのか

日テレ

韓国の半地下のトイレは、通常高い位置に設置されています。

ここで印象的だったにが、ギジョンがトイレでタバコを吸うシーン。まるで一枚のイラストのようでしたが、恐らく監督が拘った構図のうちの一つだったのではないでしょうか。なんでも、ボン監督の父はグラフィックデザインの教師だそう。だからこそ美術監督として、半地下で物思いにふける少女の絵に芸術を見出したのでしょう。

若き才能にあふれる少女が、地下の高いトイレに座る。下水が溢れてしまわないように。そしてタバコ。実際にこのシーンはなんともエモいんです。このシーンを観たとき、「お金の元…取れたな…」そう思いました。

雨を家で鑑賞している富裕層の家族、洪水で家が崩壊する半地下の家族

中盤で雨が降る夜、半地下家族はお菓子と酒を頬張り、談笑します。

しかしパク社長達の帰宅により、ギウ、ギデクは、慌ててテーブルの下に潜り込みます。

この構図も「下の人間」と「上の人間」になっています。上でいちゃいちゃして、「早く終われ〜〜〜〜」とやっている3人。このシーンあまりにも刺激的すぎるので、家族と観るには注意したいところ。（この作品はPG-12指定）

ここがボン監督が産み出した、シュールな笑いどころと言えるのかもしれません。

なぜ息子ギウは父ギデクに対して敬語だったのか

字幕ではギウは父ギデクに対し敬語で接しています。これは本当は血が繋がってないという意味ではなく、韓国では年上に対し敬う慣習があるためです。

タメ口を使うと、「育ちが悪い息子だなあ」と思われてしまうそう。色々な韓国書籍を読んで実感しますが、韓国の若者は学歴やマナーに縛られている印象が強いですね…。息苦しそう…。

娘ダヘは整形していた？彼女の日記帳の意味は？

パク一家の娘、ダヘ。一家の集合写真を、よく見ると、彼女の顔が違います。

これは韓国の整形問題を現しているそうです。

また日記帳ですが、これはギウが金持ちの暮らしを満喫するための材料みたいな意味でいいと思います。

きっと悠々自適な生活が描かれていたでしょうから、ギウはこれを読んで、「こんな豊かな生活をしている子と付き合っている俺、金持ちだなあ」と思っていたのかもしれません。

インディアン設定は監督の拘りからきている？

息子がインディアンにハマった設定についても考察しておきます。

電気のモールス信号にあらかじめ気付いていたとか、勉強ばかりしている妹を見ていたらはっちゃけたくなった、とか、色々と想像しがいがありますよね。

監督は映像美に拘る傾向があるようなので、テントのシーンを撮りたかったがためにインディアン設定を持ち込んだんじゃないかな(これがただのキャンプテントだったら、丸っこくて、家庭的、庶民的というか…インディアンのテントだからこそ、個性的でお金持ちの雰囲気を演出することができますね)

Amazon

また、インディアンは長年白人に虐げられてきた存在なので、強い立場が弱い立場になりきっている＝半地下家族も金持ちになりきっているとかけているのかもしれません。

時計回りの意味は？

本編でも、パラサイトの公式ページにも、ナルトのような時計回りがよく出てきます。これは寄生虫の針金のような見た目をモチーフにしているのでしょう。

それ以外にも、「時計回りは富裕層、反時計回りは半地下」「時間は戻らないというメタファー」とか、いろいろ考察があります。

個人的には前者も一理あるな、と思ったのですがそれに加え、時間説も結構的を得ていると思いました。

なぜなら、このシーンは時間が勝負だったからです。

地下では夫婦が写真データがある携帯を持っていました。一国も早く家から離れたい。なのにずっとぐるぐるやっていたら終わらない訳です。つまり時計をイメージさせることで、より時間の流れを強調しています。

実に悪意を感じる尺と演出。時計を映さないのに時間を感じる、監督の洒落たジョークみたいなものではないでしょうか。

あと、妙にねちっこくラブシーンがなされていましたが、ドラッグ買って〜とか、あれ聞いた時のギジョンの心情を考えると、どうにも心抉られます。

自分の考えた作戦があんなジョークに使われて、しかも旦那さんノリノリとか…お前らのイチャラブネタのためにパンティ置いてきた訳じゃねえんだよ…。

むしろあれだけ盛り上がったから夫婦は疲れて就寝→逃げれたので、結果的には半地下家族を救えたのが幸いでした。

息子が描いた絵は本当に病的な意味があった？トラウマは本当にあったのか？

ギジョンが言っていた「絵画療法」について、どんな療法か調べてみました。

「スキゾフレニア・ゾーン」とは、統合失調症を有するゾーンのことだそう。

統合失調症は幻覚、幻聴を発症する病気ですが、実際には存在していたわけですから、幻覚ではない訳です。つまり、この絵に息子に病的な意味は現れてないと言えます。もちろん、幽霊のことはトラウマになっていたから、この絵を描いたのでしょう。そして、誕生日の度に怯えていたのも無理はありません。

ギウの友人ミニョクは、結局何者だったのか？

家庭教師を勧めたミニョン。彼は結局この物語において、どういった人物だったのでしょうか？

それは、ギウがパラサイトであることを気づくきっかけを与えるため、そして、普通とされている韓国の若者を象徴しているのではないでしょうか。

彼は家庭教師をしながら、ダへと付き合い、留学も決定していました。そしてギウにその座を譲り、なぜか以降彼は出てきません。

このことから、彼は本来犯罪を犯すことなく成功を収める自由な若者の理想の姿ことが読み取れます。ストーリーに出てこなかったということは、犯罪後ただ単に留学していて、ニュースを見ていなかったから、というだけでしょうか。

彼は誰よりもキム一家に協力的であり、キム一家のことを知っていました。もしかしたら、ミニョクは世間で当事者以外でただ1人、キム一家がパラサイトであったことを知っていた人物だったのかもしれません。

ダソンを手懐けることができた訳が、ギジョンの魅力にも繋がる？

ヨンギョはダソンを大人しくさせることに苦労していました。にも関わらず、ギジョンはダソンを一発で大人しくさせています。

日本もそうですが、美大は入るのがかなり難しいと言われています。美大より東大のほうが入りやすい、という言葉も聞くくらいです。

韓国のベストセラー「あやうく一生懸命いきるところだった」の筆者は、一番難関な弘益美術大学は七浪したそう。非常にハイスペックでなければ入れないのです。美大には勉強もできなければいけませんので、ギジョンは兄同様、勉強が相当できたのではないでしょうか。

序盤でも、ギジョンは偽装のために語呂合わせをしていましたし、パンティを脱げば家族が勝手に勘違いするだろうと見抜いています。

大事なのは「元々絵画療法のカウンセラーとしての素質はなかったが、ギジョンは子供を落ち着かせる子守のテクニックは持っていた」ということ。つまり、実際にお金を貰い、それに見合う利益を提供していたのです。

だから彼女は罪悪感を感じなかった。擬装なんてただの入り口でしかなかったから。馬鹿なのは騙される方。

まるで詐欺師の心理ですね。でもそんな根拠ある自信故、はどんな時でも自信満々に振る舞えたのです。

そしてどんな状況でも失われない、気品あるその振る舞いも、この映画をより美しく見せてくれるのではないでしょうか。

家政婦が2人分の食料を食べていたことが、中盤でサラッと言及されていた。このことから分かるお金持ちの余裕

これは2回視聴して気づいたことなのですが、タクシーに乗ったパク社長が、ギデクにこう漏らしています。

「よく食べる家政婦でね。2人分は食べるんだよ」

グンセの分の食料をムングァンが盗んでいたという伏線が、ここで貼られていたとは驚きですよね。

グンセは4年豪邸の地下で生活をしていました。「食費が1人分減っていたら、普通気付かない？」と最初思っていたのですが、どうやら彼女のおかげで気づかれなかったという訳ですね。

しかし、水道代や光熱費はごまかせないはず。ヨンギョも社長も、家計はムングァン任せで、一切確認をしなかったのでしょう。また、確認していたにしても、お金持ちの人はちょっとくらい通帳のお金が減っていても気にしなかったのかもしれません。

そしてこの事実は、地味にラストの「ギウは家を買えたのか？」に絡んできます。

左右対称、真正面から撮影している訳

この映画は「シャイニング」や「ゲットアウト」を連想させるような左右対称の構図で撮影していたり、階段を横から撮影しています。

「パラサイト」

「シャイニング」

「ゲットアウト」

どれもホラー映画として有名な作品です。この手法は、人間味のない無気味な演出ができると同時に、インテリアを強調したい時に使われる撮り方でもあります。

この物語は「家」を中心に展開していくのですが、この撮り方により、インテリアの美しさを十分に表現することができます。

撮り方に拘るやり方は、最近のヒット映画で増えたな、という印象です。

アニメもそうですが、映像作品に溢れかえったこの時代、華やかな色彩、おしゃれなインテリア、レベルの高い映像美が求められているような気がします。（多分メディア映えも求められている）

SNS、Instagramが流行しているこの時代、いかに映像で人の目を惹くかというのも、人気な映画の理由になるかもしれません。

なぜ事件後、ギウは笑うことしかできなかったのか？

この理由は「脳障害で…」と、サラッと説明されていましたが、「あの監督のことだ…もっと意味を込めていたに違いない…」と（勝手に）思った筆者は、以下の考察を立てました。考えられる理由は4つ。

1. 首を括られて脳の酸素が薄かった時があったため、一瞬その影響がでた
2. あまりにも非現実すぎて、笑うしかなかった
3. 母親を元気付けるために、自分が笑って振る舞うしかなかった
4. この作品は結局コメディだから笑った

また、ギジョンは死ぬ直前、現実感なく笑っていました。もしかしたら、2人の兄妹の思考回路は結構似ていたのかもしれません。

あるいは、彼女の意思を受け継ぐために笑っていた、彼女の死を悲劇にしたくなかった（しかし本当は長男だったから泣けなかった？）

奥様はなぜ冒頭で塞ぎ込んでいたのか？

パラサイトである意味異質ともいえる、妻のヨンギョを演じたのは女優のチョ・ヨジュンさん。英語を使い、3匹の犬にそれぞれ異なった餌をあげる…など、かなり印象的なキャラクターを見事に演じていました。

個人的には見た目が黒木瞳さんに似ているような気がします。可愛らしいのに、大人の魅力も兼ね備えている容姿に、心奪われた人も多いはず。

そんな奥様の初登場シーンで、奥様はテーブルに塞ぎ込んでいたのを覚えているでしょうか。そしてその理由は作中で一切描かれていません。

この意味深なシーンについては、以下の考察が立てられます。

1. 夫に愛されていないことに悩んでいた
2. 息子の対応に疲れていた（この可能性は低いと思っていますが、息子の「落ち着きない」「走り回っている」という表現はADHDを連想させます。ただはっきりとは言われていないので真相はわかりません）
3. 料理もできず働きもせず、英語を極めようとしている自分にやりがいのなさを感じていた

個人的には3ですかね。英語もプロフェッショナルって感じではありませんでした。アグレッシブに見えて、どこか空虚な印象があるんですよね。料理もできない。彼女は悩み事を努力もせずお金しか解決できない、家政婦任せの箱庭娘なんです。

そんな奥さんは、果たして「夫や金に寄生していない」といえるでしょうか？（主婦を否定している意図はありません）このワンシーンだけで、そんな問題まで連想されるこの映画には、視聴者に鋭い観察美を与えてくれます。

ちなみにYouTubeで奥様の公式動画があるので、気になる方は是非見てください。悠々自適な奥さんが面白いです。そして相変わらずかわいいです。

https://youtu.be/cRHxKwfN9mU

（重要その1）石の意味はタイトル「パラサイト」と大きく関係していた？そして主人公が息子であった「本当の理由」
 

この物語のカギになってくるのが、ギウの持っていた山水景石。山水景石とは鑑賞用の自然石のことで、家に飾る兆候品です。

避難所で、ギウがギデクに対し、石を抱いて「この石が自分から離れないんです」と言っています。これは即ち、

「石が離れないんです」＝「この石を持っていれば、金持ちとして振る舞っても許される気がするから、手放せないんです」
 

という意味だと思います。

ブランドバッグが好きな人っていますよね。お金持ちじゃなくても、ブランド品を身につけていると、セレブになれるような気持ちになれませんか？高い腕時計をつけたら、自分がお金持ちになった気になりませんか？

「モノには魂が宿る」といいます。ギウもきっと、石を抱きしめながら、「自分は金持ち側の人間だ、ただ状況がちょっと普通と違うだけなんだ」と言い聞かせていたのだと思います。

草に1人で寝そべって、日記を読んでいた時、ギウはこれが本来の在り方なんだ、そんな風に思っていました。

しかし夫婦の寄生を知り、金持ちの人々を見下ろし、ギウはこう呟きます。

「自分はここに馴染めているのか」
 

それまで全く感じなかった罪悪感、焦りが、この問いかけのシーンで滲み上がってきます。

この言葉からも、自分がパラサイトである（寄生者である）と、はっきりと自覚したことが伺えます。

石はミニョクから渡されたものですが、作中では「富をもたらす」と説明がなされていました。

ギウは最初その石を家に飾っていましたが、地下の夫婦の存在をしり、洪水の後、石を持ち歩いています。

このシーンはどことなく、地下にいたがレコードをかけ、昼間にダンスしていたあのシーンとリンクさせられますね。

ギウは2人を見て、自覚します。自分も所詮「パラサイト」でしかない。

寄生虫。他人の栄養を横取りして生きている生き物。そんな生き物になってまで悠々自適な生活を手に入れて、人間らしく生きるなんてことができるのだろうか。

つまり他人のお金で贅沢をしたところで、本当の金持ちにはなれないと気づいてしまったのです。

乗っ取り計画を始めたのは他でもないギウですが、パラサイトであることに一番疑問を感じていたのもギウです。

その矛盾が、ギウという人間味に深みを与え、この物語の核となっていったのです。

石でを殴った時、きっとギウは悔しかったんだと思います。本当はこの石にずっと夢を見ていたかった。でもこの男の存在を知って、それは夢物語だと分かった。ギウにとってこの石は、ただの人を殴れる石でしかなくなったのです。

ギウは事件後、石を川に戻すのですが、これは「この石に頼って、偽ることをやめよう」というギウの決意が現れたシーンでもあります。ある意味、この石に依存（寄生）することも辞めた、とも言える気もします。

（重要その2）ギデクはなぜパク社長を刺したのか？

この映画の最も重要な疑問。この疑問はインターネットでも様々な考察がされています。

個人的には「ギデクは元々鬱憤が溜まっていて、しかも些細なきっかけで爆発するタイプだったから刺した」単にこれなんじゃないかって思います。

その根拠として、ギデクについて、作中では以下の点が描かれています。

• 妻のお尻を触る（半地下では夫婦がゆっくり過ごす暇もなかったんじゃないか）

• 運転中横入りする車に「どこ走ってんだよ！クソ！」と暴言を吐く（温厚に見えて繊細な性格）

• 突然キレだす（後で爆笑していたが、実はこれは演技ではなかった）

彼は同時に、一番ピュアな存在でもありました。ここで絡んでくるのがパク社長です。

何度も「でも奥さんを愛していますよね？」と問います。彼はこの時、「愛していなかったら、金持ちだろうが尊敬に値しない」と感じていたのでしょう。

ここで序盤の明るい家族の団欒シーンが生きてきます。彼はお金よりも、愛と笑いを大事にしていました。愛さえあれば、上も下も関係ない。そんな風に思っていたのではないでしょうか。

ところがそんな彼に、実際社長は、妻との付き合いを義務であるかのように言います。

綺麗な奥さんを手に入れてるにも関わらず、「そんなものは大したことじゃないな」と言われ、父親の理想の家族像は壊されることになります。トドメにには「臭い」と言われる始末。

笑い合って一生懸命日々を生きている彼らを「臭い」と言う社長。そして自分の娘が、その社長を崇拝する男に刺された。

もし社長がもう少し妻のことを大事にし、家にいる時間を多く取っていたら、男は不法侵入で逮捕され、こんな悲惨な事件は起きなかった。ギデクの頭の中で、3つのフェーズが立ちます。

なら、「臭い」なら「臭い」をはっきりさせてやる（①視野の狭窄）＋娘は死んだ。お前がこの男を野放しにした（②憎悪）＋奥さんをこの男から解放してやる（③動機付け）＝殺害

「上も下も関係ない」その信念が、180°悪い意味で出てしまったのです。

しかし殺害直後、ギテクは「自分がどこに行くべきかわかった」と言って地下に逃げますが、これは言葉通り取るより単に捕まりたくなかった、という解釈でいいでしょう。

ただ、彼は半地下で暮らしていたため、地下で暮らすのが自分にお似合いだ、と本当に思っていた（＝彼なりの懺悔だった）のかもしれません。

「無計画がベスト」は監督のメッセージだった説

ギデクは常に「無計画こそベストだ」と言っていました。その割にはギデクは無計画な殺人で隠居に追い込まれたし、ギウは「父さん、僕はお金持ちになるという計画を立てました」と言っていますね。なら、結局計画した方がベストって言いたいの？それともやっぱり無計画がベストなのか？

これはギデクの言葉というより、監督の言葉なんじゃないかな、と思いました。

この映画は無計画で予想不可能だった地下のシーンからが一番面白く、ハラハラさせられました。どうなるか読めないスリリングな展開が一番ベストだよねという監督のメッセージかもしれません。

また、

ギウ＝計画を立てて失敗した　その後計画することでやる気が芽生える　

ギデク＝無計画な殺人で隠居に追い込まれた

という点から、やはり社会を生きる上で「無計画がベスト」とは言い難い。

それでも、映画作品としては、無計画に話を展開していくほうが面白い。それに対する息子の「いやいや、僕はやっぱり堅実的に計画するよ」という反論のような意見が、監督やギデクに対するアンチテーゼにもなっているのではないでしょうか。

その後、息子は家を買えたのか？
 

息子はお金持ちになって家を買う計画を建てました。この計画は果たして実現したのか？それとも、ただの夢で終わったのか？

中には「ギウの妄想でしかなかった」という話も多いですが、個人的にはハッピーエンドが好きなので、ちゃんと家を買えるエンド…と思っていたのですが、どうやら買えないが正解らしいです。

𝐈 𝐭 𝐬 𝐮 𝐤 𝐢🚀🌕🌎 on Twitter: "希望に溢れたラストだと思っていた『パラサイト/半地下の家族』だけど、ポン・ジュノ監督がインタビューで「ギウの年収だと、あの家を購入するのに547年かかるんです笑」と答えていたと知って絶望しかない。 #パラサイト半地下の家族 #パラサイト… https://t.co/A61l9yaxd4"

買うまで547年って5世紀経ってますから、5回天皇が変わってしまいますね…。なんてこと…。

そんな年月では最早砂場の中からダイヤを探すくらい不可能ですね…ということは、ギデクはあの生活を死ぬまで繰り返すことになるのか、もしくは別の寄生者が自分を救ってくれるまで待つしかないのか…？

妻の偽装があったから光熱費や食費の変化には気づかれなかった訳ですが、ギデクには偽装できる味方がいません。近いうちにバレる可能性もあるのかも…？そうなったところで、結局牢獄という地下で暮らすことになってしまうのが悲しいところです。

しかし逆に言えば、ギウがパク社長くらい稼げるようになれば、買える可能性も0ではないのでは…？

この辺りは完全に見た人の印象によるので、なんともいえませんね。

韓国版のポスターに足があるけど、あの足は誰の足？なぜ日本版にはないのか？ポスターの考察

パラサイトは公開前からポスターデザインが話題になっていました。

日本版

韓国版

写っているこの足は家政婦のムングァンの足だと思われます。しかし、日本語版には足がありません。

これは深い意味はないのかもしれませんが、

• タイトルを強調したかったから

• ネタバレを避けたかったから

この二つ。

よく観ると、家の中にいる息子が窓に写っている。

息子が雨の日に駄々をこね、結果悲劇が起きてしまう。その悲劇が起こる予兆として描かれています（にしても心霊写真みたいで怖いんですが）また、息子だけが作中でモールス信号に気付いていたりと、息子はちょっと特別な位置として描かれていたので、その意味もあると思います。

ちなみに顔に線が入っている理由は、監督がインタビューで「犯罪者っぽいから」と語っていました。

確かに、この線だけで「なにかヤバイことが起こりそう…」と心配になりますよね。少なくともファミリー映画じゃないということは一発で分かります。

シンプルなのに家の外観にも映える、いいデザインですね。

一方こちらのポスターは、全員が集合写真のような構図になっています。こちらには足がありますね。ということは、やはりデザイン的な都合なのでしょう。

よく見ると母親の足にゴキブリが…

こちらはイラスト版。桃の木と水中で入れ替わった二つの家族の絵。水中では桃がありません。桃があった地上で、半地下の家族がトップに返り咲くということを指しているのでしょうか。

かなりたくさんの謎がある「パラサイト」。そんなミステリー要素も、この映画の人気を集める要素なのかもしれません。

「パラサイト」の背景は6割がCG合成だった

この映画は3DCGを使って撮影したそうです。また、晩酌のシーンは各役者の演技を別々で撮って合成したそう。

なぜわざわざ合成したのかと言うと、監督はスケッチをした後、構図をきっちり決めて、その通りに役者を配置させたかったのだそう。拘りが職人のそれですね。

https://youtu.be/J3tfIem4ckE

「パラサイト」の関連書籍は？サウンドトラックは？

関連書籍だと、絵コンテブック、そしてシナリオブックが発売されているそう。

韓国映画「パラサイト 半地下の家族」絵コンテブック 台湾版　Parasite: Screenplay　寄生上流-分鏡書：每一幕都起雞皮疙瘩！奉俊昊手繪162幕分鏡書　Parasite: Storyboard Book

韓国映画「パラサイト 半地下の家族」シナリオ 台湾版　Parasite: Screenplay　寄生上流：原來氣味的秘密在這裡，導演訪談+一刀未剪劇本書　台本　セリフ集

また、オリジナルサウンドトラックも絶賛発売中です。

韓国映画 - [ パラサイト 半地下の家族 ] O.S.T / 寄生虫 サウンドトラック サントラ

ちなみにサントラについてですが、公式サイトにSpotifyの視聴リンクがありますので、もしよければ購入前にそちらもご覧ください。

映画『パラサイト 半地下の家族』オフィシャルサイト

最後に:お金があれば性格が良く、なければ悪いという風潮

長々と考察しましたが、個人的な話、私は中堅層くらいの立ち位置なため、どっちの気持ちもわかるなあ、という感じでした。

お金を使いすぎてピンチな月は余裕もなくなるし、逆にある時は募金をしよう！なんて思ったりします。でもお金に余裕がなければ募金するか、と言われたら、ないよな…と思います。だってみんな自分が一番可愛いですから。

しかしそれでも、貧しくても心が貧しくなってはいけないと思っています。

心を豊かにするには、ギデクのように無計画に人生を楽しむか、それともギウのように計画を立てて夢を追い求めるか？

自分は計画的な性格なのでギウ派かな…。でもたまには計画をたてず、のんびり1日を過ごしてみるのも悪くないかも。もちろん、犯罪だけはしてはいけませんが…。そうすれば、お金がなくても心に余裕が生まれることもあるんじゃないかな。

同じボン監督の映画「TOKYO」や「母なる証明」も、そのうち観たいな〜と思います。

普段は映画などの考察をしています記事一覧 - 𝑀𝑜𝑣𝑖𝑒𝑠