【映画】ヘレディタリー～継承～の何がそんなに怖いのかを科学的に解析してみた！ネタバレ&解説✍︎︎

ついに見てしまった…。アリアスターの傑作「ヘレディタリー～継承～」

ヘレディタリー　映画.com

いや～、歴代ホラー作品に食いこむという話は本当だった…。ふぁんしーあいらんどを趣味で見て、毎晩怪談を聞いていた自分が見ても、信じられないくらい怖かったです。

そもそもこの映画はなんでここまで怖いのか？そして作中の「コッ」や「絵」そして「いけにえ」「王」について、解説していきたいと思います。

あらすじ

グラハム家の祖母・エレンが亡くなった。娘のアニーは、過去の出来事がきっかけで母に愛憎入り交じる感情を抱いていたが、家族とともに粛々と葬儀を行う。エレンの遺品が入った箱には、「私を憎まないで」というメモが挟んであった。アニーと夫・スティーヴン、高校生の息子・ピーター、そして人付き合いが苦手な娘・チャーリーは家族を亡くした喪失感を乗り越えようとするが、奇妙な出来事がグラハム家に頻発。不思議な光が部屋を走る、誰かの話し声がする、暗闇に誰かの気配がする・・・。やがて最悪な出来事が起こり、一家は修復不能なまでに崩壊。そして想像を絶する恐怖が彼女たちを襲う。一体なぜ？グラハム家に隠された秘密とは？

(引用　Filmarks)

キャスト

アニー・グラハム - トニ・コレット
スティーブ・グラハム - ガブリエル・バーン
ピーター・グラハム - アレックス・ウルフ
チャーリー・グラハム - ミリー・シャピロ
ジョーン - アン・ダウド

解説の前にピーター役アレックスウルフと、チャーリー役ミリーシャピロのオフショットを。

ヘレディタリー　引用　YouTube「FilmIsNow Movie Bloopers & Extras」

いやミリーシャピロかわいいね？！！！

二人が一緒に腕を振るのかわいくて…いい。本編でもさぞ仲のいい兄弟だったんだろうな～（すっとぼけ）

この映画あまりにも怖かったのでなるべくテンション明るめに、元気に解説していきたいと思います。

そもそもアリアスターの作品はどうしてあんなに怖いのか？

世の中にはさまざまなホラー映画がある中、なぜアリアスターの作品はここまで絶賛されているのか？それは視覚と聴覚で人の潜在的恐怖をあおるのが上手いからだと言えるでしょう。

図でわかりやすく説明するとこのような感じ。

アリアスターの恐怖

普通は「不気味なサウンド」の後は「何かが」起こるのがホラー映画の定番。だからホラー映画を見慣れた人は「おっ、今から幽霊出てくるな」ってのが経験から分かるんです。

ところがこの映画、「特に何かが起こるわけでもないのに、不快な不協和音がずっとながれ、結局なにも起きない」みたいなことがひたすら繰り返されます。

つまり、どこで怖いシーンがあるのか全く予想できず、ただ緊張だけたくさんする羽目になります。

人間は予想不可能な緊張状態が続くと自律神経が疲労し、不安になります。つまり、アリアスターは科学的に人を不快にさせている（褒めてる）のです。

私は音楽が好きで、一度コード進行というものを勉強したことがあるのですが、コード進行について知っているとこの作品がいかに不気味かわかると思います。

人というのは音楽に対し安定を求めます。イメージするなら登山。上ったらかならず山場があり終着点があります。しかしアリアスターの映画の音楽はこのコード進行がでたらめで、不協和音の連続です。

アリアスターはこのコード進行を不安定に調整するのがめちゃくちゃうまい。人が落ち着かなくなる音の組み合わせもピンポイントでわかっています。

作中序盤、リコーダー演奏のBGMが流れるのですが、この曲もコード進行がでたらめ、それもわざと終着点に行かせない変な曲になっています。子供が演奏するような、とかそんな話じゃないんです。

まるで黒板をひっかいたような不快な音の組み合わせを、絶妙にチョイスしてくるのです。これが「ヘレディタリー」を見てて体調が悪くなる理由です。

視覚的にも強烈なインパクトを与えてくる

ミッドサマーにも不気味な絵、オブジェクト、そして人間の部位を使ったアートがありましたが、これらを多用するのがアリアスター風。なぜこんなにも怖いのか？それは、

「①不自然なものだから」「②単純ゆえに記憶に残りやすい」「③斬新なカメラワーク」

この３つに理由があると思います。

①不自然なものだから

例えば背景美術。映画の背景というのは、その人が住んでいるような空気感を演出させなければなりません。使い古されているコップ、曲がった椅子、垢が残った食器など。しかしこの映画の家は人が住んでいるにも関わらず、いやに整理されすぎている。まるで誰かが出入りして、わざと家具を整えたかのように。

また、チャーリーが描いた絵もなぜか父親のあごが異様に伸びた絵がありましたが、これも

平均的な顔立ちから逸脱している→普通と違う→不安を与える

という心理的トリックが使われています。

また、母親が何度も頭を打つ行動は、初めて見た人にとっては全く理解できません。（のちに首を切り落とすためだとわかりますが）人は虫のように理解できない予想外の言動をするものには警戒する傾向があります。

だから、この映画はストーリーなんて大して追わなくても、見てるだけで十分人を不安にさせるのです。

②単純故に記憶に残りやすい

ホラーの幽霊は特殊メイクなどで血のりするのが一般的。そのほうが、人はまだ安心感を得られます。血のりや腐敗は、生き物として自然であり、当たり前だからです。

ところがアリアスターが使うイラストは二次元的。これは記号化とも言えます。

〇、△、◇といったような、単純な図形のほうが、脳は記憶しやすいです。だからこそ、ネックレスのような記号や絵をアリアスターは好んでいるのでしょう。「視聴者が目を閉じたがるなら、記憶させちゃえばいいじゃない！」という訳です。えげつない。

③斬新なカメラワーク

これもアリアスターのこだわり。上下逆さの演出は「ミッドサマー」にもありましたが、上下に変えたり４５度角度を変える演出は、色んな映画を見てきた私でもなかなか見たことがありません。こういう斬新なテクニックは、人々に強烈な印象を与えます。

視覚的にも聴覚的にも責められると、まさに無理矢理目を開かされてる状態になってしまうという訳です。逃げようがない。

「ヘレディタリー」の意味は？なぜ継承する必要があったのか？

ヘレディタリーという言葉は英語です。日本語では「継承」。

意味はチャーリーに宿っていた悪魔、デイモンの魂を、後継者ピーターに継承するまでの物語だからということでしょう。

この映画は、簡単に言えば「悪魔召喚」をしていた

日本のホラーと言えば、貞子とか妖怪ですよね。しかし海外のホラーとして有名なのは悪魔です。そして、悪魔を払う職業の人は悪魔祓いと呼ばれます。

海外のドキュメンタリーでもよくあるのですが、昨日まで明るかった普通の子供がある日突然暴れだすということがあるそうです。そのために、子供の親は悪魔祓いという職業の人を呼び、悪魔祓いをします。（日本で霊媒師が除霊するのと一緒）

日本ではあまり悪魔って浸透していないんですが、実は西洋では結構メジャーなジャンルなんです。

チャーリーは事故死でなく他殺だった！そして「コッ」の意味とは？

チャーリーの死ぬ直前、ぶつかった電柱の印。これは電柱に呪いがかけられていたのです。チャーリーが事故ではなくショーンかほかの信者によって首を切られたことがわかります。

もともとチャーリーは祖母のいけにえにされる存在と語られていました。

ただ、ピーターは事故後、ピーターは「喉がつっかえるよう」と表現しています。

チック症状ですので、もしかしたらチャーリーという女の子の自我はベイモンとは別にちゃんと存在していて、その摩擦にストレスを感じていたからチック症状がでた？という説も考えられます。

しかし①ハトの首を切り落とした②死後もベイモンの魂としてピーターを追い詰めた③生まれた時から泣かなかった④祖母に好かれていたという事実から、チャーリー＝生まれた時からのデイモンということで間違いなさそうです。

では、なぜベイモンはハトの首を切り落としたのか？

ハトは象徴学的には平和な象徴です。つまり、この時平和が悪魔によって断ち切られた、ということを意味しています。

精神病をテーマにしているという説について考える

アニーは夢遊病と言われていました。また、グループカウンセリングでアニーが、彼女の一家がもれなく精神科にお世話になっていたことが明かされています。

つまり、一家はもともと精神的に脆弱だった。それゆえに宗教にのめり込みやすい体質があったと言えます。だから祖母(エレナ)もアニーも、この宗教にはまってしまったのでしょう。彼女たちにとって、

この世＝地獄

人（自分たち含め）＝悪魔

自分たちの病気＝忌まわしい存在

であり、ベイモンはその病気を払うような存在でもあった、という説。

彼を王にして気に入られば自分たちがこの地獄でも救われると信じていたのではないでしょうか。

エレナの写真も、信者に囲われて嬉しそうにしているのが、自分が一番でありたいという気持ちの表れのような感じにも見えました。これは家族問題でもよくあることなのではないでしょうか（認められたくて何かに没頭し、家族をないがしろにしてしまうという問題）

アニーは最後にはベイモンの魂に操られ首を切り落とします。一見悲惨ですが、この死は彼女にとって希望だったのかもしれません。

首無し死体はなんだったのか？ 

これは干し首という儀式がモデルになっているんじゃないかと思いました。

干し首の制作は本来は宗教的な意味を持っていた。

干し首は敵の霊魂を束縛することにより、制作者への奉仕を強制するものであると信じられていたのである。

つまり首を差し出すことにより、より相手の霊をこの世に呼び起こし、一族に奉仕させる、ということ。これをヘレディタリーに当てはめると、

一族の女性の首を差し出す＝男性の霊（ここでは精神ということにします）を強くする→一族に貢献させる（一族を繁栄＝ヘレディタリーさせる）

ということになりますね。

この映画をめっちゃわかりやすく言えば女性の首があればあるほどベイモン様が喜ぶとかええやん！首落とそうぜ！って話なので…。

イメージとしては、弥生人が卑弥呼様に鏡を献上して、お米がたくさん実るよういのるのとまったく同じです。首より鏡のほうがいいけど。

また、一族の敵（＝精神病）という話をしましたが、この病気を治すという意味でも、この儀式を行っていたのではないでしょうか。

「女性が男性に首を差し出す」という設定はアリアスター監督のオリジナルの設定だと思いますが、「ミッドサマー」でも女性が男性に献身していましたね。監督は失恋経験から女性になんらかの鬱屈とした感情をもっているそうなので、このやろ～～～元カノ～～～これを見て震えろと思っていたのかもしれません（笑）

ミッドサマーで女性が裸で男を囲うシーンも、宗教的には新鮮な命（生命エネルギー）を集めることにより、よりそのテリトリーの気を高めることができる、ということなのではないでしょうか。

「ベイモンの魂」って何？ベイモンを憑依させて何がしたかったの？

作中によく出てくる「ベイモン」。もともとは地獄の王だったそうで、召喚者に地位を与え、人々を召喚者に従わせるようにすることができるそう。

つまり、ピーターにベイモンを憑依させ王にすることで、信者たちを王に従わせるようにした、ということだと思います。

ちなみになぜこのベイモンをアリアスターが題材に選んだかと言うと、アリアスターはオカルトに傾倒していて、「十字架とかみんなが一発でわかるやつじゃない、誰も知らないような悪霊の象徴ないかな～～～」と、探した結果がベイモンだったそうです。

光とはなんだったの？

公式サイトには「エネルギー」と書いてありますが、いやなんのこっちゃって感じなので、もっと砕くとエネルギーというより魂です。日本でいう人魂です。海外に人魂はありませんが、似たような意味で問題ないかと思います。

こッ、という音でピーターはチャーリーの存在を認識していた訳ですが、ベイモンの力はどんどん強まって、やがて光として可視化できるまでになったぜ！やったね！ということです。

ラストでピーターの憑依が成功したデイモンが、ガラス越しに笑っていたのも、自分の力が強まったことを喜んでいたワンシーン。

ミニチュアにこめられた意味は？

ヘレディタリー　映画.com

 作中でアニーが作っていたミニチュアは、チャーリーの死後、アニーの精神状態を反映するかのようにダークな作品になっていきます。

そして公式サイトには、「これはアニーがカルトという糸に操られるというメタファーである」という説明がされています。

アニーがどんどん白い服を着るようになったことから、この人形と彼女はイコールだったと言えそうです。

ラストのシーンは象徴学だった

ラストシーンは謎のシーンが多かったですね。なので各解説でまとめました。

神のような黄金の人形…頭部には信者が回収したであろうチャーリーの頭部が飾られている。チャーリーがもともと悪魔の魂を宿していたことから、女性であるが先祖的な意味で飾られたのではないか

竹…根で繋がった生命の象徴

首のない腐敗した死体…祖母の死体。新しい死体…首を切り落としたアニー。いけにえの象徴

裸の男たち…受け継がれていく新たな生命の象徴

小屋…家族という捕らわれた存在の象徴

王冠…ベイモンが降臨した証

この映画は「家族」をテーマにした映画

ヘレディタリー

アリアスターはインタビューでこう答えています。

古典を紐解いても、ギリシャ悲劇やシェイクスピアなど偉大な物語の多くは家族をテーマにしている。少なくとも自分の人生の中心には常に家族がある。家族は、自分にとって聖域でもあると同時に、罠として機能してしまうこともある。その存在をめぐる謎は増すばかりです。だからこそ映画を使ってその謎を掘り下げたいのかもしれません。

実際この映画の家族は不完全家族であるといえ、子供を常に不安にさせています。「生まれてこなければよかった」って言われてますからね、ピーター…

確かに、ホラー映画なんかでも死に直前に「お母さん」と言って死ぬキャラっていますよね。誰よりも自分を守ってくれる母親という存在が、一番の恐怖だったら？これは確かに怖い。いや本当に怖いよ、アリアスター！

あの小屋は全てセッティングだった？！

https://youtu.be/5YYlQYQvHP0

撮影で使われたアトリエは外でなく全てセッティング。監督曰く、「特殊なカメラワークをするため一から作った」そう。

最後に

簡単に言うとこの映画はポルターガイストものでしたね。しかしそれよりエレナの言動が怖かったな…。生きている人間が一番怖いというのは正にこのこと。

特に難しいトリックや謎というより、単にその方が怖く見えるからというような演出が多かったかなという印象。それから精神病的なテーマを取り扱っているので、もうちょっとそういう警告があったほうがいいんじゃないかなと思いました。ああいう状況になったら(自傷行為)普通は隔離病棟行きです。それなのにかたくなに病院に行こうとしない展開には少しイライラさせられました。

とはいえ、ラストがあまりにもばかばかしいので全て許してしまったんですが。アリアスター本当に象徴学好きだな！（絵も象徴みたいなものだしね）過去作で彼がどんな記号が好きか探してみるのもいいかもしれません。

また、この映画を「チェンソーマン」の藤本タツキ先生が好きなのも理解できました。悪魔継承の話、そして地獄の悪魔なんかも、このベイモンあたりからインスピアされてそうです。

ちなメイキング映像見たんですが、アリアスター監督が終始にっこにこで映像確認しててよかったです。（あふれる笑みを抑えきれていなかった）

期待通り、ホラーとしては極上品だったと思います。ただ個人的にはロマンホラーが好きなので、合わなかったかな…。ミッドサマーと違い、バッドエンドなのもあまり好きになれません。

フルハウスが好きなので、より地獄でしたね…これからフルハウスで口直ししようと思います。

しかし「人生で一番怖かった映画は？」と聞かれたら間違いなくこの映画をあげてると思います。

ミッドサマーと違い終始暗いので、見るときは明るい時間帯がおすすめです。

普段は映画の考察やっています

cheeeeeez.hatenablog.com