【ドラマ】今Netflixで面白いと話題！「クイーンズ・ギャンビット」を解説✍︎︎チェスのルールから描かれなかったベスの過去までネタバレ感想&考察

今日ようやく「クイーンズ・ギャンビット」を見終えました。

Netflixのリミテッドシーズンとして放送されたこの作品。薬とアルコールに依存した女の子が、チェスのトップを目指すストーリー。

いやはや、面白かったです。まるで少年漫画のような胸熱展開…それとは反し、とても美しい映像、映画のような豪華な調合品。見ていてとっても癒されました。

指先から服飾、アクセサリー、メイク…どれもが女の子の心をくすぐるものばかり。作中にでてくる男の子達も賢くて優しい英国紳士ばかり…。なによりチェスシーンがかっこよすぎる！

今回はそんな「クイーンズ・ギャンビット」の解説、感想、そして作中では直接描かれていなかったベスの心情や過去の考察をしていきたいと思います。

キャスト

アニャ・テイラー＝ジョイ
ビル・キャンプ
モーゼス・イングラム
マリエル・ヘラー
トーマス・ブロディ＝サングスター
ハリー・メリング

あらすじ

9歳の少女エリザベス(ベス)は交通事故で母親を失い養護施設に入れられる。そこでは薬物を子どもたちに投与しており、ハーモンは依存症になっていく。黒人の同級生ジョリーンをのぞいて生徒とも教師とも馴染めないハーモンは用務員のシャイベルと仲良くなり、彼からチェスの手ほどきを受ける。

引用：Wikipedia  画像　Safari online

7話構成にも関わらず、僅か1ヶ月で6200万世帯が視聴した「クイーンズ・ギャンビット」。なぜこの作品はここまで有名になったのか？

「クイーンズ・ギャンビット」を見る前に！これさえ分かれば大体分かる！チェスのルールの解説

作中ではキャラクターが何時間もチェス盤を睨み合い、駒を動かしていきます。

「ポーンを動かして…」「23手で終止符を打ちました」「相手は守りが強い」など、わかりやすい言葉で状況説明が繰り返されます。

が、見てて「何を言ってるかわからんがどうやら勝ったらしい…」みたいに置いていかれることも。

個人的には「もうちょっとCGなどで簡単な解説してくれないかな…」と思いました。

確かにルールは分からなくても、キャラクターの表情や場の盛り上がり方で分かる場合もあるのですが、中には淡々と「こうなりました。なので勝ちました」と、サラッと実況者が解説して終了、なんてシーンも結構多かったです。

チェスのルールは複雑です。覚えようとしたら時間がかかってしまいます。

そんな中でも、「これさえ知ってればベス達がなにを言っているのかわかる！」というルールをいくつか見つけましたので、簡単に紹介しきたいと思います。

ルール

1. チェスは何十手も行われ、駒がどこに行ったか分からなくなることもある。そのため、打ち終わったら場所を毎回紙に記録する
2. 一般的には1〜20手までを「初盤（オープニング）」21〜40手を「中盤（ミドルゲーム）」、40手以上を「終盤（エンドゲーム）」という
3. 考える時間をとりすぎて相手に迷惑をかけないよう、制限時間内に駒を打ち、ストップウォッチを止める
4. 相手のキングを取れば勝ち。取られれば負け。プレイヤーはキングを守りつつ、相手のキングを取るよう他の駒を攻撃して減らしていく
5. コマの動き（細かい動きは知る必要がありません。このドラマにおいて覚えておきたいのは「クイーンは上下斜めに攻撃できるけど、敵の駒に塞がれていると（ディフェンスされていると）攻撃ができない」ということだけです。

この駒で敵の陣地に侵略していき、最終的にはキングを狙っていきます。

⑥キングが射程範囲に入れば「チェック」、キングが逃げることができない場合、次のターンで取られるので「チェックメイト」となります。

引用　「チェスで覚えるべき3つの要素」「チェス入門」

このルールさえ押さえておけば、本編のチェスのルールは大体分かると思います。実際この知識でもう一度このドラマをざっと見返したんですが、ほとんど理解できました！

特別難しい型を覚える必要はなく、あくまで「人によって好みの型があるんだな〜（鬼滅の刃みたいに）』という感じで観て貰えればいいと思います。

では、これを踏まえて作中で行われたメキシコ戦（4話「ミドルゲーム」）についてざっくり解説していきます。

（以下、ネタバレ有り。まだ「クイーンズギャンビット」を最後まで観ていない方は、是非観てからこの記事を振り返ってみてください）

1966年　メキシコ戦　in メキシコシティ（4話）

第一試合　ベスvsリートビッヒ

解説「ベスはほとんどポーン♟（一番動きが制限されたコマ）だけで追い詰めました。23手で勝利です。（つまり序盤で勝った＝楽勝だった）」

第二試合　ベスvsジョンジ・ギレク（車の中で映画が観たいといっていた天才少年）

解説「ベスが封じ手を使います」→紙を渡される　これはモスクワ決勝戦でボルゴフもやっていました。「ゲームを中断する際、再開した時次の手でうんうん悩んでいたら相手に迷惑をかけてしまう。そうならによう、次の手をここのメモしておいてください」ということです。

決勝戦　ベスvsボルゴフ

この戦いは解説が長かったので、ざっくり説明します。

序盤　「ベスがボルゴフのシシリアンに応じます」　シシリアン（シシリアンディフェンス）とはチェスのオープニング（始め方）の典型の一つで、最もよく使われる手です。

オープニングとは、ゲームの展開の仕方です。クローズとは「クイーンを守っているポーン♟を攻撃にかかるゲームをいいます（ちなみにベスの得意とするオープニングが「クイーンズギャンビット」）

シシリアンクローズドの後、ボルゴフはシシリアンディフェンスの一種を繰り出してきます。先ほど記述した通り、クイーンは攻撃に強い分、ディフェンスには弱いです。

シシリアンディフェンスは最も基本的な型なため、ベス曰く「一見単純明快だった」ようですが、それでもボルゴフの予想外の動きに、ベスは負けてしまいます。

この戦いから、ボルゴフは「シンプルな手しか使わないのに、最も強い王者である」という印象を、ベスに与えた訳です。

いかがだったでしょうか。チェスのルールを少し知っているだけでも、物語の印象が随分変わると思います。

それでは、この作品の感想と考察に入っていきます。

才能がある人間はしばし孤独である

引用　ELLE

孤児院として生活していた天才少女、ベス。典型的なカトリックで、先生は厳しい性格でした。唯一心を許せたのは親友のジョリーンと、チェスを教えてくれた用務員のシャイベルだけでした。

ベスは同じ孤児であるジョリーンに薬の存在を教えてもらい、ある日オーバードースをしてしまうのですが、このシーンは可愛くもあり、危なっかしくもあり…なんともカタルシスのあるワンシーンでした。きっと凄まじいくらい胃洗浄をしたに違いない…（この薬はメタンフェタ（ヒロポン）のような中枢刺激剤かと思っていたのですが、抗不安薬の方が正確かもしれません）

ベスはチェス仲間のハリーやその友達、対戦相手と知り合っていきますが、彼女の才能は彼らにとっては足元にも及ばないもので、ベスにとっては刺激が足りませんでした。

そんなベスに、養子として引き取ってくれたウィートリー夫人が、まるで友達のように寄り添ってくれます。また、ベニーの友達も、ベスにお酒を勧めてくれるシーンもあります。

ベスの友達は男友達が多かった分、女友達はあまりいません。だからベスにとって、夫人は重要な存在…もっといえば、女騎士という鎧を脱いで一息つけるような、そんな安心感があったのではないでしょうか。

個人的には、ベスは見た目はとても女性的だけど、ハリーやバニーとの恋愛描写（ベッドでタバコをふかしたり、「心配している」と言われたり）を見た感じ、どこか男性的なところも見受けられます。

女の子らしく泣いたり、甘えるような態度は滅多にとりません。ですがそれはチェスプレイヤーとしてのあり方でもあるんですよね。

チェスプレイヤーがチェスをする時、彼ら/彼女らは、自分のテリトリーを『管理』しています。「盤という戦場で、兵士（駒）を動かす総指揮官」として、日々神経を張り巡らせてる訳です。

リバーシブルや、ディーラーがいるポーカーといったようなゲームと違い、チェスは支配力がモノをいうゲーム。だからこそ、彼女は“才能をもった”“強い総指揮官”として”常に気高く振る舞わなければならないと、自分を鼓舞していたのかもしれません。

実際に、クイーンズギャンビット制作グループが、インタビューでこのような発言をしています。

「ベスは洗練されたファッションを好む。彼女はフリルスカートに目がないんだ」

この発言からも、棋士として気高くありながらも女心を失いたくないベスの女性らしさを感じられます。

ベスは最初、シャイベルさんにルールを教わり、それ以外も孤児院のルールに従った生活に縛られていました。

しかし自由になり、色々なチェスの型（敵の倒し方）を覚えるようになり、彼女は「ルールに従って動いてきた子供」から「自分で取捨選択しなければならない大人」へ変化していかなければなりません。

そしてそれが、ベスを美しくさせた理由でもあり、プレッシャーを与えた原因でもあったのです。

そんな彼女が服を脱ぎ、ダンスするシーンは、自由になった彼女の開放的な姿が愛らしく描かれている貴重なシーンです。

ベスの母親はなぜベスを孤児院に送ることにしたのか？父親との関係は？そこから見える60年代の「女性が抑圧されていた社会」

作中ではベスの回想で、ベスの本当の母親・アリスが出てきます。

父親のことを「誤りだった」といい、「あなたは私の子供」と、涙を流しながら車を走らせる母親。また、父親らしき人物が母親を追い払うようなシーンもありました。

そして最終回でジョリーンと再会したベスは、母親と自分がかつて暮らしていた家に向かいます。しかしそこはとても裕福とはいえない家。ベスは自分と母親との関係を「複雑なの」と語っていましたが、作中では最後まではっきりと明かされることはありませんでした。

ベスと母親、そして父親との関係は？そして、ベスはなぜ孤児とならなければならなかったのか？

作中から読み取るなら、母親アリスは自殺したのでしょう。

彼女は天才数学者でした。しかしあまりにも天才だったため、結婚生活はうまくいかなかったそうです。

離婚後、別の家でベスを育て、「あなたは私の（才能を受け継いだ）子」と、娘を愛すようになります。しかし生活が苦しくなり、アリスは元夫とやり直そうとします。しかし普通の家庭を築いていた元夫はアリスを拒絶し、アリスはショックのあまり鬱状態になります。自分と娘の才能を否定されたからです。対抗車両に突っ込んで、ベスと心中を図ったのです。

しかしベスは生き延び、保護され、孤児となったのでした。

「クイーンズ・ギャンビット」では「生きづらい女性の自己破壊的行動」について焦点が多く当てています。

• あがり症でピアニストを断念し、アルコール依存になった夫人
• 複数の男性と交際している女性
• 酒場にて、同じ袋を持っている主婦
• 天才が故に気を病んでしまった母親

1960年代のアメリカでは、若い女性達は「ウーマンリブ（Woman live）運動」という、女性と男性の平等な権利を主張する運動が行われていました。しかしその一方で、先が見えない不安に駆られる女性たちが、薬物に手を出すことも問題視されていました。

酒、タバコ、そして薬…強く生きなければならないからこそ、彼女達はそういった兆候品を手放さずにはいられなかったのかもしれません。

「普通な他人」と「普通じゃない自分」を比べてしまう、そんな自分に嫌気が差すベス

6話「中断」で、酒浸りのベスは、チェスを辞めた黒髪の女学生と話をします。そしてかつて一夜を共にしたハリーと再会し、自分が酒を買っていたスーパーが彼の職場であったことを知ります。

このシーンはベスの普通じゃない生活と、彼らの普通な生活の対比として強調されています。

ベスはカールした赤髪、つまり非凡の象徴です。それにたいし女学生は、落ち着いたストレートの黒髪でした。ハリーも黒髪だったのは偶然だったかもしれませんが…異彩を放つベスとは対照にあるような、平凡的なルックスをしています。

平凡だけど、でも幸せそうに生きている。そんな彼らと、ベスは自分を比べては焦りを感じたのだな、と思いました。

可愛い服も、おしゃれな家も、チェスに勝たなければ全て無くなってしまうんですよね…その危うさが、作中ではまざまざと描かれていました。頭のいい彼女は、この不安定な状況に気づいていたに違いありません。

だからこそ、お酒で思考を鈍らせる必要があった。今後がどうなるかなんて、考えたくないから。

また、この作品ではハリーとバニーの2人が、ベスと恋愛関係になります。なにげこの2人も対照的ですよね。自信がなさそうなハリーに対し、バニーは自信満々のナルシストです。

ですが、ベスはハリーの方が好きだったんだろうな、と思うシーンがいくつかあります。ハリーには優しい言葉を投げかけたり、ハリーの前では陽気にダンスしたり…バニーはベスと同じようにチェスの才能がありますが、ハリーにはありませんでした。

そのため、チェスの世界を生きていないハリーのような男性が、ベスには魅力的に見えたのかもしれません。

なぜラストのボルゴフ戦で、ベスは薬を飲まず天井で駒を動かすことができたのか？

ラストのボルゴフ戦勝利において、最も重要なキーワードは「ベスの成長」そして「ベスの心の支え」です。

ベスはモスクワ戦での戦いで、一切お酒や薬に頼らずボルゴフに挑み、そして勝利しました。

この戦いの前に、ベスはジョリーンと話をしています。ジョリーンは黒人であることをコンプレックスに感じており、ベスに「あんたになれたらいいのにと思っていた」と打ち明けます。

自己破壊を繰り返していたベスは、この時「辛いのは自分だけじゃないんだ」と気づくことができたのだと思います。そしてジョリーンや、亡くなったシャイベルが、ずっと自分を見守っていたことを知り涙します。

夫人が亡くなり、義理の父親に見捨てられ、恋愛もうまくできず孤独だったベスにとって、ジョリーンとシャイベルは正に母親と父親のような存在であり、家族である。そのことが、ベスの心を開放させます。

モスクワの旅費は一切援助して貰わず、自分のお金で向かっています。このことからも、ベスが自立の一歩を踏み出したことが分かります。

そして、信頼できる護衛もつけてもらい、彼女の精神的支えは十分に整います。

また、亡くなったシャイベルの思い出を記者たちに話せたことも、彼女の精神的支えになります。ずっと地下でチェスをしていたシャイベルの存在が公になって、嬉しかったのでしょう。

観客たちはベスの才能を認め、尊敬の眼差しをベスに向けます。なにより、友達のハリーやバニー、そして仲間達は、電話越しにベスを精一杯応援してくれました。

この時点で、ベスはもう、あの一話の孤独な天才少女ではなくなっていました。彼女は仲間たち、そして応援してくれている人々が、薬やお酒の代わりに彼女を支えてくれたのです。自分を阻害していた不安や恐怖を、薬やお酒で取っ払う必要がなくなった。彼女にとって怖いものはなくなりました。だから、ベスは万全の状態で天井の駒を動かすことができたのです。

その動きからするに、10手、いや、もしかしたら20手先は読んだのかもしれません。10手ほど進んだ後、ボルゴフが引き分けを提案してきますが、彼女は受け入れません。彼女にはもう勝ちの手が読めていたからです。

そしてこの何十手もの予想は、全シーズンの中で一番冴え渡った読みといえるでしょう。

一度泥酔し、ボロボロになりかけた彼女を見捨てず、応援してくれた人達のおかげで、ベスのこの最強のオープニング（クイーンズギャンビット）は見事、完成することができたのです。

ラストのベスは白い衣装をみに纏っていますが、これは「白は必ず勝つ」という作中の言葉とひっかけてあるんじゃないかな、と思いました。

未来に不安を感じていたベスが、自ら白の『女王』となり、「もう自分は負けなしだ」そんな風に言いたかったんじゃないでしょうか。

引用PHIL BRAY/NETFLIX

そしてこの「ベスの成長」については監督のがインタビューで答えていました。ヘアスタイルやメイクを徐々に大人っぽくすることによって、彼女の成長を現したのだそう。

そんな細かいところにまで考え抜かれている辺り、製作者達の原作愛を感じますね。

このドラマの原作は？日本語版は読める？

このドラマの原作は1983年に発行された、ウォルター・デヴィスの小説「クイーンズ・ギャンビット」。残念ながら日本語版は現在ありません。

しかしドラマが大ヒットしたお陰で重版されているはずですから、そのうち日本語版もリリースされるかもしれません。

このドラマが世間に与えた影響は凄い！

リミテッドシリーズ公開後、チェス関連の製品の売り上げは200%増加、チェスプレイヤーは5倍に増えたそうです。チェスは世界一人気のゲーム。今後ますますチェスの世界が盛り上がるといいですね。

最後に

このドラマがヒットした理由は、正に製作者達の圧倒的才能、そして原作に対する愛だと感じました。

美しい光に纏われた画面、そして静かながらも、緊張感が漂うミュージックにも圧倒されました。特に「お！細かいな！」と思ったのが、メキシコではメキシコらしい陽気なミュージック、モスクワではロシアらしい重厚なサウンドにしていたことです。インテリアデザインも雰囲気に合わせていましたね。凄いこだわり…！

なにより一番のリスペクトは主演のアニャ。キリッとしたアイラインがかわいすぎる…。

ファッションがガーリーでかわいいのももちろん、スタイルが良すぎる…観てて次の日に筋トレをしました。美意識向上にも最適なドラマですね。

早くもシーズン2を期待したいところですが、現在その情報はありません。

ベスは依存症を克服してハッピーエンド、という綺麗な終わり方をしたので、むしろ続編はないほうが綺麗なんじゃないかと思います。

しかしその後ベスがどのように生活しているのか、結局ハリーか、それともバニーと付き合ったのか、ジョリーンは弁護士になれたのか…など、そこら辺の後日談があるといいな〜なんて思ってしまいますね。

現在、アメリカでは子供の薬物依存が問題視されています。ごく普通の高校生、大学生が、成績を少しでもあげるため、少しでもいい大学に入るためにと、ドラッグに手を出してしまうそう。日本でも残業し、エナジードリンクを飲んで中毒に…という話を耳にします。きっとベスに共感した人はたくさんいるはず。

資本主義になりつつあるこの現代でも、人は支え合い、成長していく生き物。だからこそ、「クイーンズ・ギャンビット」は大ヒットになったのかもしれません。

普段は映画や漫画、本などの考察をしていますhttps://cheeeeeez.hatenablog.com/archive